天然誤読生活

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サピエンス全史を読んで愛すべきゲスが世にはばかる秘密がわかった

 

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

 

ベストセラーはがっかりすることも多い。
だけれどもこの本は面白かった。
年間ベスト候補にあがりそう。
下巻はテンション落ちるけど、
上巻の「目からうろこが落ちる感」ははんぱじゃない。
で、その中から面白いなぁと思った話。
それは我々ホモ・サピエンスが生き残れたのは
陰口と噂話が好きだったから!という珍説。

その昔我々ホモ・サピエンスには兄弟がいた。
猿から進化した人類は少なくとも6種族確認されている。
ネアンデルタール人であるとか
デニソア人であるとか・・・。
だけど、今生き残っている人類は
我々ホモ・サピエンスしかいない。
生存競争に勝ち残ったわけだ。

では、なぜ勝ち残れたのか?
その理由としてこの本で著者があげている理由が面白い。
それが前述した通りサピエンスは
「噂話」や「陰口」が大好きだったからという説。
昔から我々はワイドショーとかスキャンダルみたいなものが
大好きだったんですね、わかる気もしますが(笑)
しかしそれが生き残りの決定打になったというのは初耳。

で、噂話や陰口をするには当然「言語」がなければならない。
だけど実は人類じゃなくとも鳥でも猿でも
実は何かしらの言語を持っているんですね。
具体的に言いますと「敵が来た!」という警告を
仲間内で知らせ合う鳴き声ということになるのですが。
それは単一ではなくて鳴き声の違いによって
どんな危険が迫っているとか、または食い物があるぞ、
とかいろんな鳴き声の違いがある。
そうするとこれはもう言語ですね。

ということはサピエンス以外も言語を使って
結果的に我々のように進化できていてもおかしくはなかった。
ところがそうはならなくてその言語自体を進化させて
結果的に「地球を征服」したと勘違いできるくらいに
なったのはホモ・サピエンスだけだった。

鳥や猿たちの言語とサピエンスの言語には何らかの違いがあった。
その違いの中でも際立って違うのが「何について話すか?」の違いだったんですね。
猿や鳥たちは敵や食べ物つまり自分たちの集団の外部について話した。
対してサピエンスは自分たちの集団の内部、
つまり「あいつはこうだよな」とか「あいつとあいつは付き合ってるらしいぞ」
みたいな「噂話」や「陰口」を話していたらしいんですね。

で、その結果何が起こったのか?
集団の規模を膨らますことができることになったんですね。
といいますのは同じ生物が同じ場所で共存するというのは
いろんな意味で物理的な限界があるわけです。
食べ物の量もそうでしょうし、人が多ければ衝突の回数も増える。
そのあたりのトラブルのもととなる「情報」を集団内で
共有しあうのが「噂話」であり「陰口」なんですね。
あいつは嘘つきだ!とかあいつは信用できる、
みたいな情報が行き渡っている集団と全くない集団では
先行きどうなるか想像はつきますよね。

そしてサピエンスの集団は規模を拡大していくことが可能になった。
その結果として他の種族との争いに勝つことが出来た。
ということが「噂話」や「陰口」がサピエンス生き残りのひとつだったという話です。

まぁこの話というのは著者のいう
「認知革命」のとっかり部分でしかないのですが
中々面白い話でもありますね。
この話からどんどん展開していく理論も大変おもしろい。
どう展開していくか気になる方は本書をどうぞ。
上巻は特にオススメです!
2017/09/09 05:52

追記

「認知革命」の続きもう少しいきましょうか。
噂話や陰口というのも何かと言うと
目の前にいないもの、つまり想像上または記憶上のものを
語っているということですよね。
これが実は他の動物では出来ないと思われるんですね。

今、目の前に現れる天敵のことを
「ライオンが現れたぞ!」ということを
鳴き声的な言語で話しあうことが出来たとしても
「昨日ライオンがこの場所にいたぞ!」
という事は鳥や猿たちは言語化出来ないんですね。
体感的に危険な場所を避けることは
実際行っているかもしれない。
しかしその程度の情報というのは
その「個体」が死んでしまえば消えてしまう情報なんですね。

ところが目に見えない記憶の中の情報を
言語化出来るということは
その「個体」が死んでしまっても
口伝え的に情報として残るんですね。
「あの谷には昔からライオンが現れやすい」
という情報が次の世代に受け継がれていく。

その不可視の情報の言語化というのは
噂話や陰口で鍛えられたのかもしれません。
そして次第に過去のものから
未だ起こっていない未来を「言語」という
道具を使って語りだすことが出来るようになった。
つまり予想出来るようになる。

そしてその予想とは当たりハズレというよりも
段々と話者の主観から生まれる抽象的な予言めいてくる。
例えばあるライオンを目撃したのに襲われなかった、
それどころかその直後に新しい水場を発見したとか、
といった、たぐいなラッキーな出来事に出会う。

すると言語によってふたつの個別の出来事を
結びつけて新たな(勝手な)解釈が生まれるんですね。
それが例えば
「あのライオンは我々の部族の守り神だ!
なぜなら水飲み場まで導いてくれたからだ!」
という言語を使った新たな抽象的な概念が生まれる。
サピエンスはその時点で「虚構」を作る力をもった。
その虚構のひとつに「宗教」というものがありますね。
で、宗教が生まれると何が変わるか?

例えばその宗教で祀られるライオンなりイワシの頭なりに
報いると「いい事」がある、という期待が生まれる。
そのいい事とは近い現世の利益かもしれないし
遠い未来である死んだ後の幸せかもしれない。
その功徳を感じさせるパターンは様々だけれど
とにかくサピエンス以外の動物のように
直近の自分の生命または自分の血統を守るためだけ
「以外」の目的を「虚構」ではあるが
サピエンスは手に入れた。
すると何が起こるか?

他の種では考えられない規模での
集団を形成することが可能になった。
自分のことしか考えられない個体の集まりでは
大きな集団を形成することは不可能。
対して、ある特定の「神」のために戦うという目的が
あるとするなら原理的にはいくらでも大きな集団を形成できる。

ネアンデルタール人はサピエンスに比べ
体格も立派で知能も遜色なかった。
一対一で戦えば大人と子供の戦い位の差で
ネアンデルタール人が有利だった。

ところが30人規模のネアンデルタール人に対して
500人規模集まって攻めてくるサピエンスは
負けるわけがなかった。
その結果サピエンスの生き残りとなった。

で、「認知革命」というのは
目に見えない「虚構」を認知できるようになったこと。
まぁ考えてみれば我々の頭の中って
目に見えないことだらけが渦巻いてますよね。
そんなことが出来るようになったのが
何故かサピエンスだけだった。
その理由として「陰口」や「噂話」が好きだった
ということになるわけですが、
では、なんでサピエンスだけが
そんなに野次馬根性が芽生えたのか?
どこかの宇宙人から
「好奇心」とか「ゲス根性」みたいなウィルスを
注入されたんですかんねぇ。というのは私の妄想(笑)
2017/09/09 11:08