天然誤読生活

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ワーキングメモリを鍛えるため、またまたひたすら要約してみた

 

脳のワーキングメモリを鍛える!  情報を選ぶ・つなぐ・活用する

脳のワーキングメモリを鍛える! 情報を選ぶ・つなぐ・活用する

 

 

最近物覚えが悪くってきたんですよね。仕事の時にメモがなくて、しばらくの間、記憶しなくてはいけない時。そんな時に以前ほど覚えられないんですね。まあ年齢のせいなのかPCやスマホに頼りきった生活が何らかの悪影響を及ぼしているのか?そのあたりさだかではないですが。

記憶力を高めたいとか、そんな必要性はあまり感じないんだけどとりあえず短期的な情報の記憶力みたいなものはなんとかしたいなあと思っているんです。という事でこの本をひたすら要約してみました。

 

【第1章 ようこそワーキングメモリ革命へ】

第1章ではワーキングメモリとはなんぞや?そして鍛えるとどんな良いことがあるのか?はたまたどんなことをすると、ワーキングメモリを劣化させるのか?といった大まかな事が書いてありますね。

ではそもそもワーキングメモリとは何なのか?言葉の感じからして短期的な記憶力みたいなイメージでしたがそうではないようですね。その場その場の意思決定機関みたいなものでしょうか?現場監督みたいな?やってくる情報に対して的確(と思える)行動をとるために脳や身体に指示を送るところみたいな感じでしょうか。だから現場監督が冷静で賢かったりすると長い目で見て有利な行動をとるしいい加減な現場監督だと身体や脳の一部が暴走して勝手きままな行動をして結果的に不利な結果を招いたりする。

 

まあいい加減ではなくても、現場監督も能力はそれぞれですし、どんなに優秀だとしても、限界はあるわけですね。例えばキャパ以上の情報をぶちこまれればパンクもするし
疲れきっていれば、わけわかんない行動もとったりする。

 

この本では2005年のジェイコム株の事が書いてますね。実際には61万円で1株売りたかったところを間違って1円で61万株の売り注文を出してしまったという事件。これもそのトレーダーがワーキングメモリのキャパを超えてしまっていてありえない凡ミスをしてしまったケースなのかもしれません。
(あくまでもしかしてという話です。)

 

まあ自分なんかでも考え事をしていてわけわかんない行動をすることはありますよね。
社会の行末に思いをはせている時とか電気ケトルに水を入れて何故かガスコンロの上に置いて火をつけたりしましたからね。

 

まあ何が言いたいかと言うとワイーキングメモリのキャパが何かに占領されていると
現場監督もわけわかんないことするって事ですね。それは重度の天然ボケだろうと云われればその通りなんですがね。

 

さて本書に戻りますと、たった5年ほど前まではこのワーキングメモリは不変だと思われていたらしいんですね。ところが最近の研究によると遺伝的傾向はあるにしても
改善し、強化も出来るということがわかってきたそうです。そしてワーキングメモリを鍛えると、困難を乗り越え、人生のあらゆる場面で実力を発揮できるということです。
職場で重要なプレゼンをするときから、サーフィンで大波みに乗る時までさまざま場面で恩恵を受けることができるということです。これはちょっとおいしい話かもしれないですね。

 

この本でワーキングメモリを鍛えるエクササイズも紹介してくれています。

今日は読書を使ったトレーニング
・少々難解な文章に取り組む。メール・Twitter全盛のこの時代、私たちは平易化した内容をごく短い文章で読むことにすっかり慣れてしまった。文章が短く、かつ簡単になればなるほど、ワーキングメモリはその文章をわけなく処理できるようになる。あなたのワーキングメモリに難題を吹っかけたいなら、ちょっと背伸びをして、歯がたたないような文章に挑戦しよう。

寝る前にトレーニングと入眠効果を兼ねて森鴎外とか読みますかねえ。
2016/04/07

【第2章 成功の鍵を握るワーキングメモリ】

第1章を読んで、ワーキングメモリとは、現場監督のようだと例えました。では監督が疲れきったりして、現場のコントロール権を失ったらどうなるでしょうか?当然好き勝手な事を始める輩が、現れてきますよね。

 

具体的には、小脳や扁桃体といった本能系のワイルドなグループたちです。彼らが目立ち始めると、現場は、賑やかではあるんだけど、風紀は乱れますね。そしてやるべき事を後回しにして、目先の快楽?を優先してダラダラとし始める。元々、本能は出来るだけエネルギーを消耗しないように、つまり目先に楽をするようにプログラムされてます。いざという時の緊急事態に備えて、エネルギーを蓄えてるんですね。


で、実際どうなるかというと、子供なら勉強しなくなったり、大人ならギャンブルや過食に走る事になる。これは大変ですね。だから、成功どころか、まともな生活を送ろうと思ったらワーキングメモリをある程度は、鍛えておく必要があるという事です。


この第2章では、ワーキングメモリの基本的な機能を見ていく事になります。ワーキングメモリの仕事を大まかに説明すると、オーナーであるあなたの方針を現実生活に実現させる事にあります。方針といっても意識的なものもありますし、無意識的なものもありますね。意識的なものであれば、例えば将来ある仕事をしたいから、あの大学で学びたい、というような目標ですね。そしてその方針なり、目標を実現するための行動を、脳の他の部分や、身体へ指示するわけです。


例えばする事と、しない事を区別する事、先の大学進学希望だと、テレビをダラダラ見るのを止めるという我慢、または決まった時間にしっかり学習するという行動を持続する事。言い換えると満足を先延ばしにする能力ですね。その辺りの決断と実行指示を、ワーキングメモリが担っているとすると、それこそ何かを成し遂げられるか?挫折するのかの違いは、ワーキングメモリにかかっているとさえいえますね。という事はこのワーキングメモリが不調の場合はどういう事態が起こるのか?最初に書いたようにワイルドな本能系がどんどん全面に、出ちゃって我慢するという事が出来なくなるんですね。

 

そして不調の原因ですが、一番大きいのは情報過多です。つまりあれやれ、これやれ、次はこれ、はいっ、これも同時に進めてね!という状況ですね。実際このようにワーキングメモリのキャパを超えちゃてる場合、何が起きるかというと、先ほど言ったように我慢も出来ないから、目先の誘惑に飛びついちゃって、後で後悔したり、第1章で出てきたジェイコム株を誤発注したトレーダーみたいに、とんでもない凡ミスを、してしまうというわけですね。という事で、いかにワーキングメモリのキャパを意識して生活するか?その辺りが大事なようです。上手く生きていけるかってかなりの部分ワーキングメモリの状態が左右しているのかもしれないですね。そしてここで吉報です。
著者によるとワーキングメモリは強化出来るそうです。それが昨日もひとつ紹介したエクササイズですね。今日もひとつご紹介します。


ランニングはワーキングメモリの活動域である前頭前皮質の血行を良くすると言われています。更に裸足で走ると効果は上がるそうです。昔、毎朝裸足でグランドを走るのを習慣にしている小学校というのがありましたね。30年ほど前の事ですが、すごい先見の明ですね。
次の第3章では、ワーキングメモリと幸福の関係についての話になります。
2016/04/08

<第3章は幸福とワーキングメモリ>

まず幸福とは何なのか?この問題は考えても、キリがないですね。ということで本書では、幸福な感情を作り出す化学物質のドーパミンセロトニンの、算出量で、ワーキングメモリと幸福の関係について考えています。

 

ドーパミンは快楽とやる気を引き起こす物質で、楽しい事をしている時に放出されます。ある行動をした結果、ドーパミンが急激に放出されると、多幸感を憶えるため、人はまた同じ行動をとりたがります。セロトニンは深い満足感や長期にわたる幸福感と関わっています。一般的に処方される抗うつ薬は、脳内のセロトニンを増やす事で作用しています。

 

カリフォルニア大学バークレー校で、ワーキングメモリ判定テストを行いました。その結果、高得点グループは、低得点グループよりも、ドーパミン算出量が多かったそうです。またドイツ、ハインリヒハイツ大学の研究によるとワーキングメモリを使ったテストをした場合は、使わないテストを行った時に比べ、セロトニン算出量が多くなる事がわかりました。

 

著者は確実だとは、書いていませんが、気分が乗らない時は、自らワーキングメモリを使った作業などを行い、やる気を上げるという方法もいいかもしれないと書いています。また著者自身が大規模な調査を行ったところ、強いワーキングメモリを持った人は楽観的になりやすいし、逆に弱いワーキングメモリの人は悲観主義に傾きがちになる傾向があるようです。(あくまで傾向です。)

 

ここまでの実験や研究、調査によると、強いワーキングメモリを持つ人は、楽観的でドーパミンセロトニンの算出量が多く、幸福を感じやすい傾向があるようです。ということは、やはりワーキングメモリと幸福度とは相関があるようですね。

 

そしてここまでの章で何度も書いていますが、ワーキングメモリの強さは生まれつきの差によって違ってはきますが、その時々の状況によっても大きく変わってくるようです。例えば本書では弁護士のアンのエピソードが紹介されていました。

 

先日から弁護士のアンは腰のあたりに、今までなかった、しこりのようなものがあることに、気がつきました。もしかしたら大変な病気なのではないか?という不安がよぎりました。しかし仕事の忙しさにかまけて、病院へ行く事はしませんでした。
実は忙しいというより、本当の事を知るのが怖かったのです。

 

アンは普段その事を考えまいとしてきましたが、不安は彼女を逃しませんでした。何をしている時にも最悪の状態を想像してしまうのです。いつの間にかアンのワーキングメモリは、病気への恐怖に占領されてしまいました。そのため仕事でおかしなミスをしてみたり、友人に当たり散らしたりと散々です。

 

さてここで、ハーバード大学で行われた、マウスを使った実験のお話です。マウスの「闘争・逃走反応」を調べるための実験です。マウスを自分より身体が大きくて攻撃的なマウスと一緒の檻の中へ入れました。その際に大きなマウスから逃げ出してしまうマウスは、その後体重の減少、性衝動の減退、不眠などに苦しんだそうです。そのうえ、BDNF(脳由来神経栄養因子)の量が低下しました。BDNFが低下するとワーキングメモリが充分に機能しなくなる事はすでに立証されています。

 

いっぽう、自分より大きなマウスから逃げ出さなかったマウスは、その後も規則正しく睡眠をとり、普段通りの栄養をとりました。そのうえBDNFの量にも変化は見られませんでした。

 

アンの話に戻りますが、友人の強いススメにより病院にて検査を行いました。腫瘍は見つかりましたが、悪性ではありませんでした。今までの心配は、嘘のように消えて、アンは本来の自分を取り戻しました。近頃は仕事を家庭も順調のようです。

 

このあたりの話は体感的にわかりますね。どうにも手をつけたくない問題があると、普段気にしないつもりであってもこころのどこかに、いつも重しがあるような感じで、目の前の事に手中出来ないんですよね。本書によると、アンのように問題に対処するのを避けていると、ワーキングメモリが機能しづらくなるそうです。

 

ということで日常を幸福に過ごすコツは、問題に恐れずに立ち向かい、ワーキングメモリを良い状態に保つそのあたりになりそうです。

第4章は失敗、悪癖、うっかりミスです。

続く
2016/04/09

【第4章 失敗、悪癖、うっかりミス】

ここ数日バドミントンのトップ選手の違法賭博問題が、話題になっていますね。ギャンブルについては、自分もかなりひどい経験をしています。だから彼らの会見での表情を観ていて、結構微妙な気持ちになりました。

 

さて、なぜ、我々は時々、自分の行動をコントロールすること事が、出来なくなってしまうのでしょうか?やるべきことをやらずに、やってはいけないことをやってしまう。著者はある行動に対して歯止めが効かなくなる事と、ワーキングメモリには密接な関係があるということを主張しています。ということでこの第4章は、ワーキングメモリがコントロールを失うと何か起こるのか?というお話です。

 

まず紹介されるエピソードは、宝くじで、アメリカ史上最高金額、手取り130億円を獲得した男の話です。当選者は成功した実業家であり、すでに大金持ちでした。当然大金を扱うことにも慣れており、当選時のインタビューでは、当選金を社会のために役立てると約束をしました。

 

ところが1年後にはほとんどギャンブルや遊興費、とんでもない投資案件に金を注ぎ込み、450億円を失ってしまいました。そして5年後には破産宣告を受けることになります。成功した実業家は思わぬ大金を手にしたことによりただのギャンブル依存症者になってしまったのです。貧乏な人がいきなり大金を手に入れたという話ではなくて、前から裕福だった人でさえ、コントロールを失ってしまったわけです。この男の脳とワーキングメモリにはどんな事が起こっていたのでしょうか?

 

シカゴ大学のウィルヘルム・ホフマンは、
意思決定にはふたつのシステムがあるという理論を発表しました。

①衝動システム
 快楽のままに行動、気分のいいことなら、なんでもしろ、と発破をかけるシステム

②熟慮システム
 理性、目標達成のため計画を練り、慎重な判斷を下し、自制するシステム。
ワーキングメモリとは直接関係している。
 
ワーキングメモリが強ければ強いほど、熟慮システムが衝動システムに優位に立つ。逆に依存症者の場合、衝動システムが熟慮システムを支配しているという事ですね。つまりワーキングメモリの力が弱くなっている。

 

宝くじ当選者は成功した実業家ですので、もともとは熟慮システム、つまり強いワーキングメモリを持った人だったのではないかと想像できます。しかし彼の脳のシステムは変化してしまったようです。一体どんな事が脳内で起こっていたのでしょうか?

 

ヒントとなる研究が本書で紹介されています。ロシアのヴォルコウという研究者が発表した論文です。依存症者の脳内で何が起こっているのかを調べたという内容です。

『依存症者が嗜癖行動をとっている時、脳の奥深くにある側坐核という部位が、ドーパミンを大量に放出する。
依存症者はその快楽を記憶する。脳の感情センターである扁桃体は、報酬を登録し、記憶の銀行である海馬に仕舞いこむ。通常、嗜癖コントロールは、ワーキングメモリが位置する脳内の部位、前頭前皮質で行われる。依存症でない人の場合、有害な行動に拮抗しようと、前頭前皮質が力を貸す。

 

たとえば、あなたがもうおかわりは結構ですとワイングラスの上に手を置く時、前頭前皮質が活性化し、その決断を促している。ところが依存症者の脳の中では、これと反対のことが起こる。嗜癖行動をとっている間、前頭前皮質の働きが鈍くなる。自分の行動を観察することも、うまくコントロールすることも出来なくなる。監督が休暇をとっているようなものだ。』

使っても使いきれないと思われた大金を、手に入れた当選者は、ほんの遊びのつもりでギャンブルを始めたのでしょう。ところがうまく行った時の快楽を忘れられずに、熟慮システムであるワーキングメモリは、衝動システムに支配されてしまったのでしょう。
その衝動システムの怖さを証明した実験も本書で紹介されています。

 

2010年、フロリダのスクリプス研究所でラットを使った実験が行われました。ラットをグループ分けし、一方には脂肪分の多いエサを好きなだけ食べられるようにし、もう一方には、ヘルシーなエサだけを与えるようにしました。

 

次に、研究者は条件付けを行いました。ライトが点灯している時にエサを食べると、電気ショックが流れるようにしたのです。ヘルシーなエサを与えられていたラットは電気ショックを嫌がり、ライト点灯時にはエサを食べないようになりました。ところが食べ放題のラットの方は、電気ショックが流されることを知っていてもエサを貪ることを我慢できなかったのです。

 

ある特定の行動の結果、何度か大量のドーパミンをの放出という快楽を得ると、再度同じ快楽を得ようとその特定の行動を繰り返すようになる。そして初めて聞いたことですが、脳はドーパミンの洪水という異常事態に対策をとるらしいです。具体的には放出するドーパミンの量を減らしたり、信号を受け取る受容体の数を減らしたりするそうです。

 

次に研究者は食べ放題ラットの脳に、ドーパミン受容体を減らすウィルスを注入しました。これにより以前と同様のドーパミンを受容できなくなるので、食べる量を減らすかと思われました。ところが、ラットは同量のドーパミンを得ようと、以前より大量のエサを食べ始めたそうです。

 

冒頭のバドミントン選手の場合、1000万ほどの金額を負けていたといいます。おそらく勝っていた時もあったのでしょう。違法賭博だから胴元側の操作もあったのではないでしょうか。例えば負けが込んでからの、一発逆転のようなドラマティックな展開を演出する。まるで自分は神に選ばれた人間なのだという勘違いさえ起こしそうな圧倒的な全能感。そんな快感を一度味わってしまうともう抜け出せなくなってしまうでしょうね。

 

そして怖いことにワーキングメモリというのは、普段そういう行動を諌めるのが仕事なわけですが重度の依存症者の場合、その快楽を実現するために、ワーキングメモリを乗っ取ってしまうんですね。そうなるとどうなるか?能力をフル回転してやらない方が良い行動を取る!という事ですね。これがワーキングメモリがコントロールを失うということですね。かなりヘビーな話になってしまいました(汗)

第5章はワーキングメモリと学習成績のお話です。

続く
2016/04/10

<第6章 スポーツで成果をあげる>

『Don’t think, feel 考えるな、感じろ!』というブルース・リーの名言がありますが、この第6章はまさにその言葉の根拠のような事が書いてありました。

 

自分はずっと身体を使った仕事をしてきたんですがいろんな技術を教えてもらったり、時には教えたりもしてきました。その際にすぐに覚える人と、逆になかなか覚えるのに時間がかかる人がいます。

 

その両者を大雑把に分けると、適当な感じの人は意外に覚えが早かったりします。逆にまじめに、メモをとったりする人が、覚えるのが遅かったりします。これはこちらの思いこみかなあとも思っていたのですが、実はワーキングメモリが関係していたようです。

 

この本は夫婦ふたりの共著なのですが、このふたりがスキーに行った時のエピソードが興味深いです。旦那のロスは、スキーをたまに楽しみます。初心者と中級者の中間くらいでしょうか。奥さんのトレーシーはスキーを、全くやったことがないのですが今回は一緒に付いて行き、初挑戦することにしました。

 

トレーシーのコーチは、親切で論理的、理想的なコーチでした。滑る際の事細かなチェックリストも教えてくれて、実際に滑走する前に、このリストをチェックすればうまくいくはずだと指導されました。トレーシーは初滑走の前に言われたとおり、リストを暗唱しました。
「腰の角度OK! 膝は?エッジは?・・・・・」
そして滑り始めました。ところが15秒後には勢い良くすっ転びました。自分に対する細かい指示が多すぎてワーキングメモリをがフル回転してしまい身体の動きとバランスを調整している脳の領域が、まったく動かなくなってしまったのです。つまり注意を払うべき情報が多ければ多いほどミスや失敗は起こりやすいのです。

 

今度はロスの場合を見てみましょう。ロスはここ数年カーブがうまく出来ずに悩んでいました。トレーシとは違う中級者向けのコーチに指導してもらいました。そのコーチは言葉で、あれこれ指導するのではなくて、一本のロープを取り出すと、片側をロスに持たせ、反対側は自分で持ちました。

 

そして「できるだけ重心を遠くにして身体を傾けて下さい、そしてこの感覚だけを身体に覚えさせて下さい」と言いました。その後ロスが実際に滑ってみると、今まで悩んでいたのが嘘のようにスムーズにカーブが出来たそうです。このコーチはワーキングメモリを通さずに、直接、小脳から運動皮質へ情報を送り、<小脳→運動皮質ループ>を利用するように指導したのです。そのあいだワーキングメモリは、補欠選手としてじっくりと出番を待っていたというわけです。

 

この件に関連している実験が本書に書かれていました。香港大学で行われたスポーツパフォーマンスにおけるワーキングメモリの役割を検証する実験です。被験者をふたつに分け、ゴルフのパターの打ち方を身につけてもらいます。ひとつのグループには、一流コーチのテクニックに基いて、パットの打ち方の詳しい指示を与えます。つまりこのグループは<ワーキングメモリ運動学習回路>を利用してさまざまな指示を記憶し、それを身体の動かし方に反映させなければならないわけです。

 

もうひとつのグループには、なんの指示も与えず、好きなようにパットの練習をしてもらいました。ただし、メトロノームの音が聞こえた時には、アルファベット数文字を発音しなければならなかった。これにより、被験者はパットの習得にワーキングメモリを使うことが出来なかった。つまりこちらは<小脳→運動皮質ループ>を使って練習したというわけです。

 

五日間の練習の後、ふたつのグループにパットのテストを行うことにしました。そしてテストには、わざとプレッシャーをかけるために思いがけないインセンティブを提供すると発表しました。成績優秀者には実験の謝礼の他にボーナスを支給、加えてトップゴルファファーから、直接指導も受けられるというオプションをつけたのです。

 

ふたつのグループのメンバーはいずれも緊張してしまいました。その結果<ワーキングメモリ運動学習回路>のグループは練習時と比べてもパットの成績がとても悪かったそうです。プレッシャーにワーキングメモリを占領されてしまい、身体の動きまで気が回らなかったのではないかと思われます。

 

一方<小脳→運動皮質ループ>のメンバーは練習時と同等の成績を納めました。同じようにプレッシャーを感じ、ワーキングメモリは占領されていましたが、パットの動作にワーキングメモリを、もともと使わなくて良かったのでいつもどおりの成績が出たようなのです。

 

この話を前述した仕事の覚えの早さに当てはめると、適当な人間のほうが、とりあえず早く仕事を覚える理由というのがわかってきます。つまりあまりに、一生懸命に指導を聞き逃すまいと頑張ると、ワーキングメモリがいっぱいいっぱいになってしまい、何でもない事ですら出来なくなってしまうということですね。

 

つまりスポーツや身体を使った仕事の基礎を覚えるにはブルース・リーの教えに従い
『Don’t think, feel  考えるな、感じろ!』でいくのがよろしいようです。

 

ただ付け加えると、一所懸命な人は、時間が経てば適当な人を追い抜いていくパターンが多いとも思いますがね。
2016/04/11

<第7章 ワーキングメモリの発達と衰え><第7章 ワーキングメモリの発達と衰え>
この章では認知症とワーキングメモリの関係について興味深い研究が書いてありました。著者は、認知症とワーキングメモリの関係は、司書と図書館の関係に似ているといいます。
『司書のように、ワーキングメモリはあなたが本ーつまり情報ーを探すのを手伝う。そして図書館の書架に保存されている本を探し、あなたが目的を達成できるように力を貸す。アルツハイマー認知症の患者の場合、司書と図書館の両方が打撃を受けている。司書が書架から目当ての本を手際良く探し出せなくなるうえ、当の本まで虫に食われているのだ。ワーキングメモリが萎縮して、書架から目当ての本を探し出し、それを利用して目的を達成する能力が衰える。さらには本の劣化により、文字の判別まで困難になる。』
なるほどなるほど!とてもわかりやすいたとえ話だと思いました。


ところで、高齢になって認知症になってしまう人もいれば、全くならない人もいますが、何が違うのでしょうか?その件に関して本書では、興味深い研究が紹介されていました。それは修道院で暮らす修道女に対してワーキングメモリの高低を含めた認知力のテストを行い分析したという研究です。


修道女たちは、ほほ同じようなライフスタイルを送ってきたはずです。ところが、高齢になって記憶障害に悩む人もいれば、100歳を超えても全然元気な人もいます。どういう違いがあるのでしょうか?

 

修道女の中には死後、検体を提供してくれるという方もいました。その中には、認知症の方もいましたし、そうでない人もいました。ところが解剖の結果、神経繊維のもつれなど、物理的な認知症の状態が認められたのに、生前全く対外的に、その症状が見られなかったという人がいたのです。例えるなら、大腿骨が折れた人が、普通に歩き回っていたというような事です。


ただ興味深い事にそのような人の海馬は、極度に大きくなっていたようです。神経繊維のもつれという、物理的な認知症の症状を、記憶の貯蔵庫である海馬がフォローしていたという事でしょうか?そしてその人の生前の認知テストを見返してみると、ワーキングメモリが高かったという事もあるようです。 つまり仮説段階ではありますが、ワーキングメモリの強さが、認知症の症状を抑える可能性もあるのではないか?という事です。


図書館と司書の例えでいうと、たとえ図書館の蔵書が年月を経て少し痛んできたとしても、司書であるワーキングメモリに頑張ってもらえば、必要な情報を自分の脳の中から持ち出す事は充分可能だという事かもしれませんね。つまり認知症との戦いにおいて、ワーキングメモリは強い味方になるのかもしれません。2016/04/13

 

【第9章 スペシャリストの秘密】

この章に記憶術に関してエピソードがあったので紹介いたします。

☆ブートストラッピングの記憶術
ドミニク・オブライエンという人が実践している記憶法です。この人、記憶術に関してとんでもない記録を持っています。2002年、シャッフルされたトランプ54組の順番を記憶し、ギネス記録を樹立したそうです。2808枚(54✕52)のカードをランダムに並べた後
一度だけ見て記憶し、その後見せられたとおりにカードの順番を思い出していくというものです。とんでもないですね(笑)

実生活でどれほど役立つかは謎ですが(笑)少なくともスプーン曲げよりは役立ちそうですね!

 

この本にこのエピソードが出てくるのはこの記憶術がワーキングメモリを活用しているからです。ワーキングメモリを使ってストーリーを作り上げ、それを馴染みのある旅と馴染みのあるキャラクターに結びつけて記憶するという方法ですね。

やり方
以下、引用

①一組のトランプの1枚1枚のカードにふさわしい、馴染みのあるキャラクターを考えだす。
例えばハートの7はジェームス・ボンドと結びつけている。
クラブのキングは、ジャック・ニクラウス、すなわちゴルフ(クラブ)の帝王(キング)といった具合だ。 
②それぞれのがカードのキャラクターと慣れ親しんだ旅を結びつけて、
それが正確な順番で出てくる旅の話を考えだす。
たとえば、気に入りのゴルフコースを歩いているというように。

こんな風景を想像する。
ジェームス・ボンド(ハートの7)が、
ジャック・ニクラウス(クラブのキング)からゴルフのレッスンを受けている、
というようなイメージ、これを22808枚分作り上げたということです。
うーーん。
確かに覚えそうだけど、そのストーリー作りが大変そうですね(笑)
記憶力より、その執念こそがギネス獲得の秘密かも(笑)

この記憶術はストーリー法などと呼ばれる記憶術の一種。自分の家から職場までのルートに、それぞれの覚えるべき言葉のイメージできるキャラクターを配置して、一つのストーリーとして覚えるという方法ですね。

 

映画「羊たちの沈黙」のレクター博士の記憶術も近いかも。頭の中に豪勢な記憶の宮殿というものがあってそこに膨大な知識が収納されているという設定でしたね。そのため独房にひとり居ても全く退屈することがないという話でした。記憶の宮殿の中に入り込めれば、いつでも様々な書物や芸術などを楽しめるという感じですね。ギネス記録はいらないけど、頭の中に、宮殿とはいわないけどちょっとした小屋(笑)を作ってそこにniceな記憶を配置するっていうのは楽しいかもしれませんね。
2016/04/14

 

<第8章 ワーキングメモリ・トレーニング入門>

最近の研究によると、ワーキングメモリは、トレーニングや習慣によって改善されることがわかってきました。この章では脳を活性化できると謳う脳トレや、数独、ゲームなどを次の視点をもとに評価をしています。

☆どんなスキルを改善するのか?
・近い転移ーーー
ゲームのスキルが身に付くと、それと近い関連分野のスキルも身に付く事を指す。
・遠い転移ーーー
あるスキルを鍛えれば、鍛えられたスキルとは関係のない分野のスキルまで伸びる事を指す。

ーー数独ーー
数独が得意な人は、数独が苦手な人よりもワーキングメモリのスコアが50%も高い。しかしワーキングメモリが強い人は数独が得意であるということなのか、それとも数独をしているとワーキングメモリを改善出来るのか?どちらなのかはわからない

ーーコンピューターゲームーー

・シンプルなゲーム
テトリススーパーマリオなど。こういうゲームで遊びながら、素早くアタマを動かしていると反応時間を競うテストの成績が向上する。主に近い移転効果がある。

脳トレゲーム
フランス、アメリカで2010年、日本で2012年での実験によると、ワーキングメモリに対する改善効果は認められなかった。

・戦略ゲーム
2012年に行われた実験によると、ワーキングメモリのスキルに関連するストループ課題の成績の向上が見られた。この結果から判断すると戦略ゲームで遊ぶと、ワーキングメモリにポジティブな効果が及ぶ可能性があると考えられる。

 

ポイントは近い転移と遠い転移のどちらを求めているのか?ということだと思います。
ワーキングメモリに良い影響を得るのが目的なら遠い転移が期待できる数独か戦略ゲームが良さそうな気がします。この章の後半は著者が開発したゲームの宣伝?的な文章になるので飛ばします。
2016/04/14

【第10章 ワーキングメモリと食生活】


ダイエットには運動より、食生活が重要ということが、よく言われますが、ワーキングメモリの強化についても同じように食生活の影響がとても強いようです。

この第10章では具体的に何を食べればよいのか?具体的に提案されています。効果はおもに3つに分かれますので分類ごとに、紹介していきます。

①健康維持ーーーー
ワーキングメモリの劣化を防ぐ食物
・乳製品
・赤身の肉(シカ肉がオススメらしい???)

②機能増強ーーーー
神経細胞の成長と血流量促進、認知機能の衰えを防ぐ
・果物と野菜(フラボノイドにより血行を良くする)

③刺激・活性化ーーーー
脳内の電気的信号がスムーズに受け渡しできるようにする食物
・オメガ3脂肪酸を含む青魚など
・クルミ、亜麻仁油など

面白いなあと思った記述がありました。人類の芸術や文化の出現と、食物としての魚類の摂取の開始は同時期だったのではないかという仮説です。つまりオサカナが人間を賢くしたのではないのか??

 

『先史時代の祖先もまた脂肪分の多い魚のオメガ3脂肪酸から多大な恩恵を受けていたのかもしれない。先史時代に死に絶えているネアンデルタール人の化石からは、骨のコラーゲンに海洋性タンパク質が含まれているものは見つかっていない。ところがネアンデルタール人よりあとの先史時代の人類では、魚のタンパク質が含まれた骨が見つかっている。彼らの食事の半分近くは、海洋生物で構成されていた。魚の摂取の開始と、先史時代の芸術や文化の出現の時期は一致していると指摘する研究者もいる。当然のことながら、芸術や文化活動にはワーキングメモリが欠かせない。』

 ということで僕は最近毎朝、鯖缶を食べているのです。お気に入りのブランドはこれです。別に賢くならなくても許せるくらいの美味です(笑)

伊藤食品 美味しい鯖水煮 190g×4缶

伊藤食品 美味しい鯖水煮 190g×4缶

 

 

【第11章 スーパーチャージする7つの習慣

この章では、ワーキングメモリに良い変化を起こすための7つの習慣を提案しています。

➀充分な睡眠をとる
当たり前ですが、規則正しい良い睡眠をとること。睡眠不足の場合、マイナスの出来事や情報に扁桃体が過剰反応してしまい、感情的な行動をとってしまいがちになる。ワーキングメモリを司る前頭前皮質の働きが鈍る。

②整理整頓
モノを減らす。視界の中に、物が入っているだけで、少しずつワーキングメモリのリソースを消費している。毎日ほんの少しの時間でいいから片付け、整理を習慣にしよう。

③本能のまま身体を動かす。
本書ではムーブナットを推奨しています。足元に何があるか予測不能な屋外で走ったり、木に登ったりする遊び?です。ムーブナット考案者によれば、ジムでの運動はまるで動物園の檻の中でゴリラがつまらなそうに歩き回っているようなものだそうです(笑)

④創造性を発揮する
日常生活の中でも、出来上がった便利グッズを利用するだけではなく、今ある物で工夫する事によって生活を楽しむ。昔の子供が想像力を発揮して、周りのもの全てをオモチャに変えて楽しんだように。

⑤いたずら書きをする。
数年前、プーチン大統領が深刻な国際会議の最中にイタズラ書きをしている画像がネットで話題になりました。この行動は正しいようです。イタズラ書きはワーキングメモリに、ほとんど負荷をかけないのに、前頭前皮質を覚醒させておく事が出来るそうです。つまらないミーティングの時も、超重要な会議の時も積極的にイタズラ書きをしましょう。ただあまりに面白い絵を書きすぎて、ひとり場違いにいきなり笑うのは避けましょう。怖いですからね。

facebookを活用する
facebookに限りませんが、SNSを利用して、色んな人と交流を持ちましょう。相手が何を考えているのか考えたり、気の利いたコメントを考える事はワーキングメモリにとって良い刺激になります。ただし、ハマりすぎは気をつけましょう。目の前の大切な人が寂しがっているかもしれませんよ。

⑦屋外で過ごす
イデアに煮詰まったら散歩しましょう。ゲーテもベートーベンも、散歩を習慣にしていたそうです。ちなみに街中を1時間散歩した場合にワーキングメモリは5%上昇、公園を1時間散歩した場合、ワーキングメモリは20%上昇したという実験結果が書いてありました。結構違うものですね。
2016/04/20

【ワーキングメモリ活用法のまとめ】

第12章は、著者によるワーキングメモリに対して、優しい?都市計画や住居などの提案になっています。社会への提言みたいなものですね。しかし残念ながらあまり面白くないので省略します。

その代わりに、巻末にワーキングメモリの活用法と、トレーニング方法のまとめがあったので、そこからいくつかを紹介いたします。

①生活をシンプルにするためにやるべき事を減らす。それによって大切な事に、ワーキングメモリのリソースを集中する。
行動リストを作り、優先度の低いタスクを1週間ストップする。その結果大きな不都合がなければ、そのタスクはもう行わない事にする。

②週に一度、ネットやスマホを完全に断つ。ネットなしの1日を楽しむ。

③新しいスポーツを習得する時には、疲労困憊している状態で技術を学ぶ。そのようなワーキングメモリが働いていない時の方が、肉体的なスキル獲得を行いやすい。

④意識的に暗算を行い、ワーキングメモリに負荷をかけるトレーニングを行う。

⑤古典文学の複雑で難解な文章を読む事によって、ワーキングメモリに負荷をかけるトレーニングを行う。また過去の外国の世界の物語なら、その世界観を頭の中で、作り出さねばならないため、その意味でもトレーニングとして有効。

⑥レシピを見ずに料理をする。

⑦ランニングをする。出来れば自然の中で走る。さらに出来れば裸足で走る!!!

⑧外国語を学ぶ

⑨仕事は引退しない

⑩脳に栄養を与える

・オメガ 3系の油 ・脂肪分の少ない赤身肉 ・脂肪分の多い魚 ・緑黄色野菜 ・ベリ ー類 ・牛乳 ・赤ワイン ・ベリ ー類のワイン


2016/04/20