笑いの辞典を発見したので高いけど即買いした。【日本語 笑いの技法辞典】
この本はすごいです。驚きました。日本の小説や漫才・落語などの笑いを分析して、著者独自の分類法により「笑いの技法」をまとめておりまして、辞書のように笑いを学ぶことができるのです。
巻末の索引も充実しています。例えば太宰治、サトウハチロー、三遊亭円楽らの名前がずらりと並んでいて、この人の笑いはどんな特徴を持っているのかな?なんてことを、すぐに調べることができます。図書館で見かけてこれは買いでしょ、と思いその場でAmazonに注文しました。
で、まえがきにあたるページで笑いとなんぞや?という著者の考察がありまして、これもとても腹落ちしましたので、以下に簡単にまとめます。
笑いには2種類あるそうです。
①直接的な笑い
ものごとを概念的に認識するプロセスを経ずに起こる 自然発生的なもの。感覚的・生理的な心地よさから起こる快感の笑いである。さらに3つに分類できます。
A「感情的な快さの笑い」感動や満足感や安堵からくる笑い。
B「友好的な笑い」 歓迎や笑いや愛想笑いといった対人的な笑い。
C「自衛的な笑い」 困惑・落胆・余裕といいた心を隠す自己防衛的な笑い。
②間接的な笑い
頭で何らかの解釈をほどこした結果生ずる 。広い意味での発見の驚きを伴う「おかしみの笑い」。こちらも3つに分類出来る。
A「驚きの笑い」信じがたい現象に対するとまどいから生じる笑い
B「攻撃的な働きかけの笑い」 揶揄・嘲笑・自嘲などの笑い
C「滑稽の笑い」 関係の矛盾や違和感の発見といったジョークやエスプリ・アイロニー、あるいは人間的な共感にもとづくヒューマーも含む笑い。
この本では②のC「滑稽の笑い」を中心にさらに12の笑いの技法の種類に分類しています。
①展開
「殿様の褒美とかけて春の日と解く」といった奇言を発して注意を引き、あとで「くれそうでくれない」と説明する【奇先法】など。
②間接
「便所」を「レストルーム」とぼかすなど、あたりさわりのない表現で伝える【婉曲語法】など。
③転換
「うどんのようなよれた顔」のような直喩や動植物や物体などを人間めかして扱う擬人法など
④多重
八七八という数字に、音の似た別語「花屋」や「やな奴」をあてはめて意味をこじつける【語呂合わせ】や【駄洒落】など
⑤拡大
小林秀雄が「川端康成は小説なんて書いていない」と延べたように、強調の為に細かいニュアンスを捨てて極端に表現する【極論】や【誇張】など。
⑥逸脱
「首輪をつけてない方が僕」と說明するように、わかりきったことをあえて表現する【無駄言及】や【慣用句の活性化】など。
⑦摩擦
「文学というものは君が考えるほど文学ではない」のように、表現の内部に意図的に自己矛盾を設定する【矛盾語法】や同じ意味の表現を意図的に重ねる【同義循環】など
⑧人物
彼女は私の品性ではなくルックスに惹かれたなどときどってみせる【自惚れ】や【気障】【奇癖】など。
⑨対人
「千早振る神代も聞かず龍田川」という名歌を、相撲取りと花魁との因縁話にしてしまう【こじつけ】や【おとぼけ】【暴露】など。
⑩失態
【早とちり】や【曲解】ゆで卵を「ゆでた孫」と解するような【異分析】や【本末転倒】など。
⑪妙想
「ものはかんがえよう」として、排泄作用を「深山幽谷」という大自然の趣に昇華させる【下ネタ】や【おかしな現実】【屁理屈】【穿った解釈】など。
⑫機微
「人の世の味わい」として【ことばの奥の気持】【ありがた迷惑】【風情】など。