天然誤読生活

誤読とそら耳を恐れない書評と音楽レビューとトンデモ理論を書き散らすハートに火をつけて(くれるかもしれない)ブログです。

【書評】Ank:☆アフリカからやってきたチンパンジーが厄災を振りまきながら京都の街を疾走する小説

 

Ank: a mirroring ape

Ank: a mirroring ape

 

自分であって自分でないもの、だけど、それは自分である、という不思議なもの、それは鏡に映し出された自分。今のところ地球上の生物で鏡に映ったものが自分の姿である、ということを認識できるとされているのは5種類の生物だけだそうです。ゴリラ、チンパンジー、ボノボ、オランウータン、そして人間。だけどこれは諸説あってこんな記事もありますね。

gigazine.net

で 、本当のところはわかりませんけど、今回読んだこの小説は、鏡に映った自分を自分であると認識し始めたからこそ、ヒト(ホモ・サピエンスは言葉を操り、抽象的思考ができるようになったのではないのか?

そしてその仮説が正解であるのなら、人為的にチンパンジーに抽象思考を憶えさせること、つまり類人猿を進化させることは可能なのではないのか?という実験を行おうとしたら、とんでもない惨劇が起こったというパニックホラー的な小説です。ネタバレになりますが、どんな話かといいますと・・・。

 舞台は2026年の京都の大規模な類人猿研究所。そこに南アフリカから7歳オスのチンパンジーがやってくる。このチンパンジーは古代エジプト語で鏡を意味するアンクと名付けられる。アンクはずば抜けて頭が良い。人間でも手こずりそうな組み立て式のパズルもさらりと完成させる。研究所の所長鈴木望はアンクに研究の未来を託す。

で、ある日関西地方でマグニチュード7.9の地震が起こる。研究所の中でパニックが起こる。その異常な状況の中でアンクは突然奇妙な鳴き声を発する。その鳴き声を聞いた人間とチンパンジーは突然暴力的になり、人間は人間同士、チンパンジーはチンパンジー同士で殺し合いをはじめる。奇妙なのは人間が手近にある何か、例えば金属でできた武器となりそうなものを使うことをせず、とにかく自分の拳で殴ったり、歯で噛み付いたり、といった道具を用いる前の原始人のような戦いかたをすることだ。

で、その騒ぎに乗じてアンクは研究所から逃げ出して京都の街を疾走する。奇妙な鳴き声で唸りながら。惨劇は京都の街中に広がる。アンクの通り過ぎた場所にいた人間たちは際限のない殺し合いを繰り広げる。事態収集に向かった警察も陸上自衛隊もアンクの鳴き声を聞き殺し合いをはじめる。この惨劇の原因はアンクにあると気づいた鈴木望はアンクを追う・・・。

というようなストーリーなんです。この展開、すぐにハリウッドで映画化できそうなストーリーですね。でも、ぼくが感じたこの小説の面白さ、というのはそのストーリー展開ではないんですよ。

昨年サピエンス全史というとてもおもしろい本を読みました。

lifeofdij.hatenablog.com

 たぶん、このAnkという小説とサピエンス全史も考察していることは同じだと思うんですよ。それはやはり我々ヒト(ホモ・サピエンス)とは何者なのか?どこから来て、どこへ行こうとしているのか?それを違う切り口で書いている本のような気がします。だからサピエンス全史を読んで面白れー!と思った人は楽しめる小説かもしれません。

lifeofdij.hatenablog.com