天然誤読生活

誤読とそら耳を恐れない書評と音楽レビューとトンデモ理論を書き散らすハートに火をつけて(くれるかもしれない)ブログです。

【映画評】シェーン 事前の予想をかなり裏切られた名作映画

 

シェーン [DVD]

シェーン [DVD]

 

 このあいだBOOKOFFに行ったら昔の名作映画の中古DVDが200円で大量に売っていたので7本ほど買い込みました。で、まず見たのがこの【シェーン】。スカッとさせてくれる映画なんだろうと想像していたたのですが良い意味で裏切られました。かなり考えさせられる映画でした。

ざっくりとどんな話なのかといいますと・・・。

舞台は南北戦争後のアメリカ西部。開拓民である3人家族のスタンレー家のもとにシェーンという流れ者の男がやってくる。家族とシェーンは打ち解ける。シェーンは農夫としてしばらく住み込みで働くことになる。しかし、その土地ではスタンレーたち開拓民と以前から住んでいた牧畜業者ライカーたちとのあいだで争いが絶えなかった。端的にいってしまうと、ライカーたちが新たにやってきた開拓民たちを追い出そうといろんなちょっかいを出していた。そのうち、開拓民のひとりが、ライカーに雇われた男に銃殺されたことにより事態は完全に深刻なものとなる。スタンレーは開拓民の代表としてひとりでライカーのもとへ向かおうとするが、シェーンは罠だから行くな、自分が変わりにいくといって譲らない。しかし、スタンレーも譲らない。ふたりは殴り合う。結局シェーンが勝ちひとりで街へ向かう。シェーンに憧れていたスタンレーの息子ジョーイもこっそり後を追う。シェーンは街に着き、ライカーと彼が雇った殺し屋と向かい合う・・・。

という話。この映画、観ててまず思ったのはリアルな表現がたくさんあるなぁ、ということ。例えば服装。ヒロインであるスタンレーの奥さんの服が泥で汚れていたりだとか、その他の登場人物たちの服装もなんかよれよれ(笑)確かに開拓時代にパリッとしたアイロンがかかった服装をしていたらおかしいですよね。それから、街のメインストリートの地面が泥でぐちゃぐちゃにぬかるんでいて、歩く人が靴に泥が染み込まないようにひょこひょこ歩いている様子とか。

そして最もリアリティがあるなぁと思ったのはシェーンとスタンレーの殴り合いの場面ですね。これが結構かっこ悪いんですよ。実際のリアルな世界での殴り合いみたいにみっともない。そこがすごくリアル。実際の殴り合いって、カンフー映画みたいにカッコよくないし、プロの格闘家の試合みたいに、瞬殺なんて少ない。たいていは、お互いが興奮して、痛みなんか感じない状態だから、かなり殴られても、だらだらと殴り合ったりしている。そのあたりがすごくリアルで観ていると痛みが伝わってくる。だからこそなのか、シェーンの男気みたいなもの、つまり俺はどうでもいいからおまえは家族を大事にしろ!という家族持ちのスタンレーという親友に対するシェーンの自己犠牲的なヒロイズムがジンジンと伝わってもくる。(その態度がどうこうではなく、その時のシェーンの気持が伝わってくる)

それからですね、冷静に考えてみると、この作品の背景ってのも、またえっ!と思わせるところがあるんですよ。表面的には、スタンレーという開拓民が、かわいそうな善で、ライカーという牧畜業者のジイさんが越後屋風な腹黒い悪者みたいな構図なんですが、ところどころに出てくるライカーというジイさんの言うことを聞いていると、うん、たしかに、あんたたちもつらいよな、というところがかなりあるんですよ。つまり、これはどうみても単純な勧善懲悪とは程遠い映画だぞと気付かされるんです。

具体的に言いますと、南北戦争後のアメリカではホームスタッド法というのがあったそうです。政府は耕作地を広げるためにある土地に住んで5年間耕作を続けたら、その土地の所有権は与える、っていう法律を作ったそうなんですね。

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ホームステッドほう【ホームステッド法 Homestead Act】

アメリカ合衆国において,公有地を開拓民に無償で与えた法律。1862年に成立したこの法の下で,年齢21歳以上の合衆国市民は160エーカー(約65ha)の公有地を,5年間の居住・開墾の後に無償で取得することができた。植民地時代以来,だれもが自分の土地をもって独立できるというのが〈アメリカの夢〉であったが,この法律は,その夢に実質的内容を与えたものといえる。公有地は当初,連邦政府の財源とみなされていたが,やがて現実に土地を利用する開拓民に有利な方向へ政策が展開していった。

 劇中でランカーじいさんが、自分たちがこの土地でどうやって生き残ってきたかについて激白する場面があるんですね、それは、彼らよりさらに前から住んでいた先住民たちとの血みどろの争いなどですね。

で、それがやっと落ち着いたかと思ったら、今度は政府の一方的な政策によって、どこかから、開拓民が大量にやってきて、自分たちが切り開いた土地を奪っていく。これって仲間たちの生命も犠牲にしながら土地を守ってきたランカーじいさんたちにとってはとんでもない話ですよね。

だけどそのランカーじいさんもシェーンにあっさりと銃殺されてしまいますし、シェーンもあの有名なラストシーンシェーンカムバック!」では、馬上ですでに死んでるいるのではないのか?という解釈もあるそうです。そしてロッキー山脈の雄大な景色だけはオープニングでもラストでも変わらず圧倒される美しさで映し出されている。つまり争ってばかりの人間という存在の小ささと、ロッキー山脈が象徴する自然の大きさのコントラストがあまりに大きい。

そこで、このストーリーって、一体、何を伝えようとしているんだろう?とふと考えてしまうんですよね。ちなみにこの映画の監督は「アンネの日記」映画版の監督もしているようです。そのあたりにも、この「シェーン」という映画のメッセージを読み解くヒントがありそうです。

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