天然誤読生活

誤読とそら耳を恐れない書評と音楽レビューとトンデモ理論を書き散らすハートに火をつけて(くれるかもしれない)ブログです。

【書評】ネバーホーム 男装した女性が南北戦争に従軍する話なんですが・・・

 

ネバーホーム

ネバーホーム

 

 重い作品です。読み終わってから、心にいくつか重石を置かれたような読後感です。設定だけ聞くと、スリル満点なアクション映画が作れそうな印象です。時代は南北戦争の時代(映画「風と共に去りぬ」の時代ですね)。農場を経営する夫婦がいる。夫は踊ったり花をつんだりするするのが好きな優男。対して妻は男勝りの強い女。でこんな出だしからこの物語は語られる。

「わたしはつよくてあのひとはつよくなかったから、わたしが国をまもりに戦争に行った」。

つまり、強い奥さんコンスタンス・トムソンがアッシュ・トムソンと名を変えて、そして見た目も男装して戦争に行くという話なんですね。で、アッシュは騎士道的な勇敢な行動から隊のなかでは「伊達男アッシュ」と呼ばれる有名人になる。隊を率いる大佐はアッシュを呼んで個別に深い話をするようになる、大佐はとてもするどいところのある人物で・・・

 というようなストーリーの出だしです。これだけ聞くと幾通りのもの面白そうなストーリーが想像できませんか?

ところがこの作品、まったく予想とは違った重苦しい展開をアッシュに与えるんですね。まぁ一言でいえば話の中心はいかに「ホーム(故郷)」へ帰れるか?という旅を描くことになります。ロードムービー的ですね。

で、アッシュは家に帰ろうとしますが、出会う人々はたいていアッシュを引き止めます。そしてその人たちはみなホームを失った、またはホームを傷つけられ、壊された人々でもあります。アッシュは出会った人たちの思いをある程度理解できるようですが、それでもホームへ帰る道を止めません。そこで考えるのは、そこまでして帰ることをあきらめないコンスタンスが、なぜホームを飛び出したのか?という疑問です。

弱い夫の身代わりとなって徴兵されたということではないようです。なぜなら、夫は反対に妻に変装して女となって家に残るわけでもないですから。そして、自分の男性的な強さを誇示、または試したくて戦争にいったのか?そうでもないようです。実はその「コンスタンスという女性がなぜアッシュと名を変えて戦いにいったのか?」という謎を読み解くことが、この作品の鍵だったのかな?とも思えます。もちろん私個人の「読み」でしかありませんが。

母親のこんな言葉がコンスタンスのその後の人生を支配したのだろうか、とも思えます。

あんたもいつかあんたのこわがる心に見つかるよ。娘や。いつの日か怖がる心があんたを見つけて、いろんな手くだをつかってあんたの気持をシワくちゃにちぢめるんだよ

その言葉を確かめる、またはその言葉が表す出来事を違うものとして、あらたな記憶として塗り替えるためにコンスタンスはアッシュとなって旅に出たのかな?なんてことがまずは今のところの私の解釈です。

しかし、まだすっきりとはしません。永遠にスッキリすることはないかもしれませんが、時折また考えたいところです。なぜなら自分なりの解釈をするというのは、その重し石を取り除いていく、ということなのかもしなれないなぁと思えるからです。