天然誤読生活

誤読とそら耳を恐れない書評と音楽レビューとトンデモ理論を書き散らすハートに火をつけて(くれるかもしれない)ブログです。

バーナード嬢を読むと「おまえは(愛すべき)バカだなぁ」と思い合える友達が増えるかも。

 

 読書好きにとってはとっても笑えるマンガの第2巻。だけど今回も私の妄想はあらぬ方向へ飛んでいきまして、無駄な深読みへと突入していきました。きっかけは、エピソードの中に出てきた数年前に日本中をわかせたあの作家の話題からです。まずはどんなマンガなのかとご説明いたしますと・・・。

 舞台はある高校の図書室。読書家の生徒と読書家になってみたい?という生徒たちの痛くて笑える日常を描いています。4人のうち、2人がメインキャラクター。ひとりめは、読書家に憧れるけど、読書が面倒臭いという(自称)バーナード嬢こと町田さわ子。もう一人はマニアックなほどSF小説が大好きな神林しおりという女子高生。
このふたりが、ボケとツッコミみたいな感じで「本」を題材に、チグハグなやりとりをするんですね。ツッコミの神林はガチガチの読書少女であるんですが、ボケの町田さわ子のほうは、いかに「読まず」に読書家になれるかということに情熱をそそぐ不届き者。

で、話のパターンとしては、さわ子がいかに労力をかけずに周りからカッコイイ読書家と思われるかを叶えるために行う詭弁と行動を、神林が一刀両断する、という感じです。漫才を見ているような面白みがあるんですが、ボケであるさわ子の詭弁というのが冷静に考えるとバカバカしいんですが、妙な説得力があって面白いんですよ。


例えば村上春樹との距離感にそろそろ決着をつけよう、みたいなところから始まる、さわ子理論が面白い。

①「いけ好かねえ」的態度でスルーするか?

②それとも売れ方や海外での評価なども含めて「興味深いよね」的態度をとるか、

③がっつりハマるべきか?

みたいな選択肢をあげて悩む。しかし突っ込まれて実は今まで一冊も村上春樹を読んだことがない、ということがバレるみたいな(笑)

そんな感じで古今東西の名作をネタに面白エピソードが続くんですが、ひとつ、笑うというよりも、なるほどね~と関心もしたし、非常に共感できるエピソードがあったんです。


それが冒頭に書いた、数年前日本中をわかせたあの作家の話なんです。その作家というのは「KAGEROU」を書いた水嶋ヒロさんの話です。本物の読書家である神林はKAGEROUを読んだんだけど「大したことはなかった」と語るんですね。

ところが、とても共感できたので何度も繰り返し読んだというんです。大したことない、と自分で言ってるのに。それは神林自身がやはり書くことに対して強い憧れを持っており、実際に短い小説を書き上げたことがあるそうなんですね。だから、仮にも文学賞を受賞した作品を自分が評するのは、おこがましいと前置きしつつも、KAGEROUを読んでると、一生懸命たくさんの比喩を使って、ぎこちない言い回しをして、明らかに無理をしている感覚がわかる、というんですね。例えるなら、必死に背伸びをする高校生のように不器用ではあるけれど、ひたむきな小説だと思ったと。だから、ぜひ次の作品も読みたいと・・・。


このあたりの感覚というのは自分もわかるんですよ。実際自分も作家に憧れて趣味でいくつか小説を書いてますから。本当にしばらくたってから自分の書いたものを読み返すと恥ずかしくてたまらないくらい、無理してるなぁとも思ったりするんですよね(笑)だから、水嶋ヒロに、共感した、神林しほりという登場人物に、今度はぼくがすごく共感したという・・・(笑)

で、このマンガというのは最初に紹介したとおり、見事なギャグ漫画なんですよ。すごく笑える。そしてこの作品の笑いの正体というのはメタ認識だと、思うんですよ。本を読んでる人間や本を読んでるふうに思われたい、という人間の見栄とかおごりみたいなものを、一段高いところから観察することによってギャグとして成立させている、という。

そう、考えると、メタ認識というのは、他人をあざ笑うためにある、あまりよろしくないもの、みたいな、一種冷たいような、突き放したような世界の捉え方みたいな感じのような気もするんですが、今回の神林のように、水嶋ヒロに対する共感も見つけられる、ということになると、メタ認識というのは笑いと同時に他者に対する理解、つまり「寛容」も見つけられるものなんだなぁとも思えます。まぁどちらもなんでしょうね。

で、もしかしたらもともと理解と笑いというものは切り離せないものなのかもしれないですね。もしもたくさんの人が、この作品での神林のように、メタ認識をしつつ、世界をとらえることができて、いろんな人間関係を作れるのなら、「おまえは(愛すべき)バカだなぁ」みたいな暖かい関係が世界中でもっと増えて、もっと平和な世界にになるのかもしれないなぁ、なんていう壮大な妄想を抱いてしまったのです。