天然誤読生活

誤読とそら耳を恐れない書評と音楽レビューとトンデモ理論を書き散らすハートに火をつけて(くれるかもしれない)ブログです。

速読実践10【データの見えざる手】☆ここ最近で最もインパクトあった凄本!

 

 この本、すごいですね〜、あせるくらいにインパクトのあること書いてますよ。ついつい二回連続速読しちゃいました。二度速ですね!

昨日エントリーしたケン・リュウの小説もウェラブル端末がキーポイントになっていましたが、この本は著者自らが実際にウェラブル端末を携帯して、人間の行動の隠れた法則をあきらかにした、ということが書いてある本です。

私の左腕には、24時間、365日、左手の動きを記録するこのセンサが装着されている。1秒間に20回も計測した詳細な加速度データがコンピュータに蓄積されている。

このデータから、たとえば、過去8年に私が、いつ寝返りを打ち、いつ集中して作業していたか、ということが解析できる。短時間のデータが意味することは、単に左手の動きであり、ごく小さな意味しか持たない。

しかし、本書で紹介するように、1週間、1ヶ月、1年、2年、さらに複数人のデータへとまとまるにつれ、より大きな意味を持つことが次第に明らかになっていった。

で、自分以外の人にも協力してもらってデータを集めて検証してみたら面白い結果が出てきたんですよ。というのは・・・・

 主に腕の動きの計測結果なんですが、静かで小さな動きの数は多くて、激しい大きな動きというのは少ない。で、その比率が全員規則正しい割合になっている。

この傾向は大変規則的で、典型的には、1分あたり60回以上の運動をすることは1日の半分(1/2)程度だが、1分あたり120回以上の運動をすることは、その半分(1/4)程度に減る。

さらに1分あたり180回を超える運動をすることは、さらに半分(1/8)程度に減る。これをグラフにすると、片対数プロットでは右肩下がり直線のグラフになる。

 で、このパターンを破ろうとすれば、例えばずっと激しい動きばかりしていると、いわゆる燃え尽きというか、やる気がなくなったり、ストレスが強く出てくるらしいんですね。

で、もちろんその動きの総計というか、個人個人が最初から持つ活動予算というものの多い少ないは人によって違うんですね。そのもっている予算をいかに配分してうまく使えるか?それが大事だそうです。

人によって活動温度が高めの「熱い人」と、活動温度が低めの「冷たい人」がいることもわかっている。熱い人は平均120回/分程度動いている。逆に冷たい人は、平均60回/分程度である。

活動温度が高めの熱い人は、平均して動きが多い。活動温度が低めの「冷たい人」は、平均して動きが少ない。一見、活動温度が高い人のほうが活動的で、より多くの仕事が出来そうである。しかし、そう単純ではない。

活動温度の高い人が、原稿執筆のような比較的低い帯域の活動(動きの少ない活動)をする必要があるとしよう。実は活動温度の高い人は、高い帯域の活動(動きの活発な活動に)にいやでも時間を使わざるを得ない。従って、原稿執筆のような低い帯域の仕事にあまり時間を使うことができないのだ。つまりこのような人は、長時間机に向かって仕事をすることが難しくなる。

逆に、活動温度の低い人は、高い帯域の仕事(比較的活発な動きを伴う仕事)をしようとしても、そのための活動予算が足りなくなりやすいのだ。したがってこれにあまり時間を使うことができない。 p48

 ということだそうです。これちょっと面白くないですか。人それぞれ適した行動量というものがある、ということですね。で、 ウェラブル端末を使って、リアルタイムで動きの状況を見える化することによって、あぁ今日は激しい動きが多すぎるかな?とか、今日はまだ余裕があるぞ、みたいな個人にとって最適な動きを知ることができるんですね。

ウェラブルセンサを使えば、自分がどの活動が、どの帯域を使うのかがわかるし、一日の活動予算も明確になる。その日のなかで、ある活動のための予算があとどれくらい残っているかもセンサによってわかる。自動車のガソリンの残りをメーターで見ながら運転するのと同じで、メーターを見ないときより、確実に目的地にたどり着けるようになるだろう。p49

言い方を変えるとウェラブルセンサがペースメーカーという伴走者になってくれる、というイメージでしょうか?そして著者はこう書いてます。

幸せは加速度センサーで計測できる

また

ウェラブルセンサとその分析技術は、人と組織にとって、新時代の「鏡」となるのではないかと期待している。つまり、個人が自分の状態を、組織が組織自身の状態を見ることができる鏡だ。p172

ということです。自分に適した動きで日常を送れれば、一日一日が幸せに暮らせ、また生産性も上がるということですね。で、反対から考えるとこの活動予算を無視したToDoを自分に課したところでうまくいくわけもないし、たぶんうまくいかないということ。

で、ここまでは平和な感じですが、でもここから読んでいて少し怖いなぁと思うところが出てきたんですよ。

といいますのは、応用編として実際の小売店で店員さんとか店長さんに端末を持たせて、彼ら彼女らの動きと、店の売上の相関関係をAIを使って調べるということをしたらしいんですね。

で、その結果、店内のある場所に店員が滞在している時間が長い日は売上が高い、というデータをAIが出してきた。その場所がどこかとは、本文中には明示されていませんが、特に変わった場所ではなくて、普通の人間の感覚では売上と直接関係が出てきそうな場所でもない様子。

でも一応そういうデータが出てきたので、実際に店員をその場所にできるだけ長く滞在させるようにした。すると実際に売上が大きく伸びたらしいんですね。

ちなみに同時に販売のコンサルタントにも売上を上げるための戦略を考えてもらって実践したんだけど、そちらの方法では売上の伸びは叶わなかったらしいです。

面白いのは、高感度スポットに従業員が滞在することと顧客単価の上昇を結びつける機序が自明ではなく、うまく言葉で説明するのがそう簡単ではないということだ。その場所に従業員がいることで客の店内での流れが変わり、それまで人通りの少なかった単価の高い商品の棚での客の滞在時間が増えたことが寄与しているし、エビデンスもある。しかし、そのように客の流れを変えるために、問題の商品棚から遠く離れた場所が「高感度スポット」として選ばれたのかがなぜなんか、直感的にはわからない。

〜中略〜

このように、実験によって事実が確認された後でも、それがなぜなのかを直感的には說明できないような、売上要素を、予め人間が仮説として立てることは不可能である。人間には決して立てられない仮説を立てる能力が、人工知能にはある。p188

つまり販売戦略競争を人間とAIで争ったらAIが勝ちました、ということなんですね。幸せは加速度センサーで計測できる、という著者の言葉を引用しましたが、同時に、ある目的を達成するための最適な戦略もAIは立案できるということなんですね。人間以上に上手く。

これを個人の幸福というものに置き換えてみると、ウェラブル端末でデータをとって、AIに「今からどんな行動をとればボクは一番幸せになれるかな?」と聞けば、「では、今から◯☓へ行って☓◯をしてください」みたいな、幸せになるための行動を教えてくれるということなんですね。

将棋とか囲碁の世界でのAIの活躍を思い出してしまいました。で、最適解を見つけようととするAIからみると人間は将棋のコマみたいなものということになるような・・・。

で、この本のタイトルは【データの見えざる手】ですがアダム・スミスの【神の見えざる手】をもじった言葉らしいです。

つまり神からデータへ

これっていわゆるシンギュラリティーってことなんじゃないのかな?なんてことを思いました。

で、速読データ。

65分 500文字✕230ページ=115000文字 1分間あたり1769文字。

理解度5(10点満点)響き度10(10点満点)本の難易度5(10点満点)

理解できてきない、または勘違いしている部分も多いと思いますが、どえらい響いた読書体験でした。

 

追記

我々が、一日のToDoとその各項目の時間配分を、自分の自由になると思っているのは全く幻想であることがわかる  p46

 

「鳥のように空を飛ぶ」という人類の夢は、「飛行機」という「鳥」とは似つかないものにより実現されたことを思い出そう。人工知能の議論では「人間の知能そのものを人工的に再現しなければいけない」という強硬な態度をとる人と、「最初は鳥を夢見て出発し、結果として飛行機を造っても、知的な問題解決に役にたつモノができればそれでよい」という柔軟が考え方がある。私はどちらかというと後者である。p194 

 

機械が学習するという意味では、世の中で研究開発されている人工知能は、いずれも何らかの形で学習を行う。ただし、目指している方向から、人工知能は3種類に分類される。それは「運転判断型」「質問応答型」「パターン識別型」の3種類である。p198

 

「ライフシグナルズ」の考え方を簡単に紹介しよう。まず行ったのは、人生・生活のわずかな変化の兆候をウェラブルセンサでシステマティックにとらえることである。人生や生活には、本人の気づかないうつに変化があるが、その変化は、睡眠時間の増減や、歩行時間の増減などの数値に投影されている。これを抽出するため、センサのデータから、生活の変化を代表する6つの特徴量を特定し、それが前日と比べて増えたか減ったかの二つに分類することによって64個(2の6乗個)の生活変化のパターンを特定した。この64個のそれぞれのパターンを経験したその日に、どんなことに配慮すればよかったかを振り返り、その場で作成した自分値のアドバイスを記録していった。これにより、過去に同じパターンを経験したときに自分に対して行ったアドバイスが、次回からは自動で呼び出されるシステムができたわけである。長期の地道な作業が続いたが、遂にすべてのパターンに対するアドバイスを構築出来た。世界に類を見ない人生のあらゆる変化に関する体系化されたアドバイスのデータベースができた。p240