天然誤読生活

誤読とそら耳を恐れない書評と音楽レビューとトンデモ理論を書き散らすハートに火をつけて(くれるかもしれない)ブログです。

西郷どんも登場しちゃう明治を舞台にした大傑作ミステリ

 

明治断頭台―山田風太郎明治小説全集〈7〉 (ちくま文庫)

明治断頭台―山田風太郎明治小説全集〈7〉 (ちくま文庫)

 

 今回ご紹介するのは明治2年から4年にかけての東京を舞台にしたミステリーになります。ミステリは、パズルとか、からくり細工に例えられることが多いですが、この作品もその系列に入っております。クライマックスにおいて「とんでもない謎」がドミノが倒れて全く違う絵が浮かんでくるがごとく、謎が解明される様子は読んでいて楽しくてうっとりいたします。ところが、この作品、そのような「楽しさ」だけではないんですね。どんなことかといますと・・・。

 まずはこの作品のおおまかな概要から。連作短編という形になっております。日本警察の父と言われる元薩摩藩川路利良佐賀藩出身でいつも平安貴族みたいな格好をしている美青年、香月敬四郎が複雑怪奇な事件を捜査するという話。彼らがフランス人女性エスメラルダの降霊術の力を借りながら、事件を解決していきます。

ところが、物語にある人が現れることによって話はひっくり変えるんですね。それまでに川路と香月が解決してきたいくつかの事件の様相が白から黒へと一気に反転してしまう。そのある人、とは西郷隆盛さんです。

その西郷さんですが、今年の大河ドラマの主役ですね。ここ数年大河は観ていないのですが今回は久しぶりに観ています。なんでかっていいいますと、自分的には、西郷さんって、すごく不思議な人だなぁという印象があって気になるんですよね。「命もいらぬ、名もいらぬ・・」という無私の人というイメージがあるのに、幕末における権謀術数の伝説。

例えば、坂本龍馬さんも 「西郷というやつは、わからぬやつでした。釣り鐘に例えると、小さく叩けば小さく響き、大きく叩けば大きく響く・・・」なんて言葉で西郷さんを表現していますね。一体西郷さんという人はどんな人だったのでしょうか?

面白いサイトがありました。
【謎】写真を1枚も残さなかった西郷隆盛の本当の顔
http://nihonshi.hatenablog.com/entry/saigou_picture
ついでに、同じサイトから川路利良について、これも楽しい。タイトルがお下品なのでURLのみ。
http://nihonshi.hatenablog.com/entry/kawaji-toshiyoshi

で、話を戻しますと、なぜこの作品が、ただの楽しいだけのミステリではないのか?前述したとおり西郷さんの登場によってひっくり返った物語世界の中で、作者である山田風太郎が最も考えたかったことであろう「謎」について、川路は考えざるを得なくなるんですね、その謎とは「正義の政府とは存在するのか?」ということなのですが。まぁ「政府」に限らず、どこから見ても正しい「正義」というものは存在するのか?という謎ですね。

もしかしたら第二次大戦中に青春を過ごした山田風太郎の頭の中には、常にその疑問が渦巻いていたのだろうか?みたいな想像もしてしまいました。大きく叩けば大きく鳴り、小さく叩けば小さく鳴り、徹底的に腹黒いのか、それとも無私すぎて凡人には理解できないだけなのか?そんな謎の人物である西郷さんは、まるで謎だらけのこの世界そのものを象徴しているのかもしれませんね。

蛇足ですが、どうしようもないクズみたいな人間が自分の生きざま(死に様)を見つけるという話でもあります。彼らの視点から読み直してみても物語はまたぐるりと反転します。グロい場面もありますが、一流のエンターテイメント性と深い洞察が共存する素晴らしい作品です。

2018/01/06