天然誤読生活

誤読とそら耳を恐れない書評と音楽レビューとトンデモ理論を書き散らすハートに火をつけて(くれるかもしれない)ブログです。

【映画評】アラビアのロレンス 

 

先日、映画「ガンジー」を観て歴史の概略を映画で学ぶのもありだなぁと思いました。

lifeofdij.hatenablog.com

ガンジーは第二次大戦時の出来事でしたが、今度は少しだけ時間をさかのぼって第一次大戦中が舞台の「アラビアのロレンス」を観てみました。

映画として超名作中の名作と言われている作品ですね。たしか、25年くらい前にVHSで観た記憶があります。しかし今回観なおしてみたら全く印象が変わってしまいました。というか、前半部分は憶えていたんですが、後半部分は、えっ〜、こんなストーリーだったっけ?と思うくらいに忘れていたのです。しかし、そのおかげで新鮮な気分でこの映画の良さを感じれたのかもという気もします。

 で、この作品もガンジーと同じように、実在の出来事と実在の人物を描いた映画ですね。その出来事とは、今もずっと問題が続いている中東問題のきっかけとなった英国の三枚舌外交といわれる外交政策から引き起こされる歴史上の出来事です。

ざっくりいいますと1910年代、オスマン帝国(今のトルコ)がアラブの部族たちを支配していた。で、アラブの部族はイギリスなどの力を借りる(または乗せられる?)かたちで、オスマン帝国に反乱を起こす。で、この映画の主人公であるロレンスはイギリス人ながら、アラブ反乱軍の参謀となり大きな戦果をあげ、アラブの独立に大きな役割を果たした、という歴史上の事実を映画化したものがこの「アラビアのロレンス」なんですね。

で、私が憶えていたという前半部分というのはすごく爽快なんですよね。まず砂漠の風景がめちゃくちゃキレイ。風紋というんでしょうか、風が砂漠に模様を描くんですが見とれてしまうくらいに美しい。

で、主役であるロレンスを演じる金髪碧眼長身のピーター・オトゥールもカッコイイんですね。(しかし実際のT・E・ロレンスは165㌢という小柄だったらしい)で、見た目だけではなくて、行動力や判断力、そして思いやりなんかも兼ね備えたカリズマティックなキャラクターなんですね。だから、前半部分は、いわゆる快男児モノとでもいうんでしょうか?常識はずれの変わりものが冒険に出かけた異世界において突然目覚めてヒーローになっていくという感じが超爽快。

例えば、砂漠に置き去りにされた一人のアラブ人を助けるために、ロレンス自らが救出に向かいそのアラブ人の命を救う。ロレンスの英雄的行為は、アラブの戦士たちにとって、それまでは半信半疑だったロレンスというイギリス人を完全にアラブの仲間、それも誇るべき勇気のある仲間として認めさせることになる。ほとんど英雄扱いされることになる。その信頼を得たことによる勢いもあって数々の作戦に成功する。

ところが、徐々に戦いは厳しさを増す。連れ添った若い友人を自らが銃で撃つことになったり、アラブの部族間のトラブルを解決するために、ロレンス自らが砂漠から救出した男を今度は処刑しなければならなくなる、という皮肉な運命につきあたる。

そして、ダマスカスに向けて砂漠を進軍中、オスマン帝国軍と遭遇することになる。するとアラブの兵隊のひとりから「あいつらは自分の村を襲撃した奴らだから戦わせてくれ!」と懇願される。最初からロレンスと一緒に戦ってくれていたアリ首長はロレンスを止めようとする。しかし自暴自棄になりはじめているロレンスは一斉攻撃の雄叫びをあげる・・・そして戦いはあのキレイだった砂漠を血に染めて・・・・。

というような感じで前半と後半では、かなり雰囲気が変わってきます。で、今回最後まで一気にまともに観て思ったのは、あの憶えていた前半のスカッとする英雄譚は後半のロレンス自身の苦悩を際立たせるためにコントラストとして用意されたものだったんだな、ということです。

そしてその狙いは私といういち視聴者にはモロに刺さってしまいました。後半でのピーター・オトゥールの演技というんでしょうか、顔の表情っていうのがすごいんですよ。拷問を受けたあとの気力を失った表情、狂ったような表情で戦場でラクダに乗って疾走するシーン、そして戦い終わって血にまみれた刀を見つめている虚脱したような表情。

で、実は先日今現在のシリアでの内戦の被害に巻き込まれた少女が書いたという本を読んだんですよ。ちょっと感想をまとめられないくらいの内容なので書評はまだ書けないんですが。(一部書いてあることが本当なのか?という疑問が解明されていない状態でもあるので)

バナの戦争

バナの戦争

 

 だけども、この本【バナの戦争】に書いてあるようなことは実際に起きてるんだな、というのは間違いないと思うんですよ。で、それは信じられないような悲劇なわけですけど、それが起きているきっかけとなったのが、映画「アラビアのロレンス」で描かれた出来事なんだなぁと思うと、さきほど書いたような、後半でのピーター・オトゥールの苦しげな表情というのもまた観ていて苦しくなるほど刺さるんですよね。