天然誤読生活

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【書評】超訳戦国武将図鑑 ☆もしも柴田勝家がフロイトの精神分析入門を読んでいたら?

 

超訳 戦国武将図鑑

超訳 戦国武将図鑑

 

面白いアイデアの本です。著者によれば現代は戦国時代みたいなものだということです。例えばコンビニ各社の争いはまさに戦国武将の争いみたいじゃないのか?と。

コンビニ業界は戦国状態。毎日が売上のバトル。だから、ある日突然、近所に新しいコンビニが開店したと思ったら、なじみのコンビニがなくなって、別の店になっていたりするでしょう?これ、まさに「戦国時代の支城」が増えたり、減ったりするのと同じこと。

〜中略〜

こう考えると、会社の本社は本城で、支店は支城のように見えてきます。社長は戦国大名で、幹部社員・一般社員は・パートは家臣。学生バイトは足軽と忍者。制服は鎧。弁当は兵糧。ビジネス書は兵法書。手紙・密書はメール、スマホとパソコンは刀と槍。筋トレは武術訓練、養生法は栄養分析とサプリ・・・

読んでてちょっとウケてしまいましたが、たしかに戦国時代も今も食っていくのは楽ではないというのは同じなんでしょうね。さて、この本のアイデアが面白いと冒頭に書きました。簡単にどんな面白さなのか說明いたします。まず・・・

 約60人の戦国武将のオモシロエピソードを中心に、その人となりを図鑑形式で紹介しています。これだけだと、今までも同様の本はあるかと思いますが、もうひとつ面白い趣向がこの本には凝らされているのです。

それは紹介された武将それぞれが、我々現代人がいかにも悩んでいそうな人生の諸問題、つまり悩みに対して相談に乗ってくれるんです。架空の人生相談が展開されるということです。それも、武将自身が現代のビジネス書や自己啓発書を読んで自らの武将人生を振り返りながら、相談に答えてくれるという内容なのです。

 

例えば関が原の決戦で裏切り者として歴史に名を残してしまった小早川秀秋さんには、あてつけのようにこんな相談が寄せられます。

Qすぐに誘惑に負けてしまいます。仕事が終わり、家についてから未だ時間があり、書類整理、読書、勉強など有意義なことができるはずなのに、気がつくとポテチの袋をもってテレビを見ています。なぜ?

それに対し小早川氏はまずこの本を紹介します。

トリガー 自分を変えるコーチングの極意

トリガー 自分を変えるコーチングの極意

 

 で、自らを振り返りながらこう語り始めます。

人生って決断の瞬間があるじゃないですか。そこですべてが決まってしまうという瞬間。僕のこと、裏切り者のバカみたいに言う人が多いけど、じゃ、あんただったらどうすんの?って聞きたいよ。だって裏切って勝ったって、もうトラウマよ。良心の痛みが絶えません。【トリガー 自分を変えるコーチングの極意】にはこう書いてありますぞ。「・・・私達には自我の力と呼ばれる有限のリソースがあるとする。それは誘惑に抵抗する、妥協する、欲望を抑制する、考えや発言をコントロールする、他人の作ったルールを忠実に守るなど自主規制の様々な努力によって、一日のあいだに消耗していく」これを「自我の消耗」というらしい。そう。ぼくはもう疲れてしまったんです。三成様と家康様にはさまれて・・・。「決断疲れ」とも言うそうです。こんなわけですから、毎日があまりに忙しいと、自我が消耗して決断の「トリガー」が鈍ってしまうのです。そうならないように環境を整えて、普段から自分自身の意志決定の「トリガー」をもたなければなりません。でも。ボク、家康様の鉄砲のトリガーで動いちゃったんですよね・・・。

と、こんな感じでアドバイスというか自虐的な反省みたいな感じの笑える回答が多いんですが、けっこう痛いところをついてきて、勉強になることが多いんですよ。で、前述しましたとおり、このようなパターンで約60人くらいの戦国武将の反省なり有益なアドバイスが読めるというわけです。

で、この本の中での架空の設定。つまり戦国武将が現代のビジネス書を読んだらどう考えるか?もしも本当にそんなことが起こったらどうなりますかね?

例えば、誰かがビジネス書がたくさん入っているKindle端末をもったまま戦国時代にタイムトリップしたとする。その内容を織田信長なり黒田官兵衛なり宇喜多秀家、または明智光秀が読んだとする。歴史は変わりますかね?どうでしょうか?

または反対に戦国武将が現代にタイムスリップしてきてビジネス書を読んだとする。しかし、彼らは元いた戦国時代に帰ることは出来ないとする。つまり、過去を変える可能性のある知恵は手に入れたけど、過去を変えることができない。すると、どう感じるか?どう行動するか?

それってたぶんボク自身よく思うことなんですが、ある役立つ本に出会って「あぁこの本を二十歳の頃に知ってたら!」って思うことってあるじゃないですか?失敗したぁ、悔しいなぁみたいな。で、そう思うだけでなにも行動しない。もう今さら手遅れだろうみたいな。その感覚に近いんじゃないですかね?

で、現代にタイムスリップしてきた戦国武将に話を戻すと、彼らの中でもビジネス書を読んでからの行動も、分かれてくるんじゃないかと思うんですよ。

ある武将は「ああ、こんないいやり方があったのか。悔しい・・・。あの時、この本と出会っていたら・・・」みたいな武将もいるでしょう。

一方、全く別の反応を示す武将もいるんでしょうね。その読んだ本の知識を活かして、タイムスリップしてきた現代でも天下統一してやろうか?なんて企む武将もいるんでしょうね。

そう考えると、この本って、本に対してどう向き合うのか?ってことを突きつけてくる一冊ともいえるのかもしれません。

「あぁこの本を二十歳の頃に知ってたら!」と思うのか、それとも

「この本と出会って60歳の自分をどれくらいハッピーに出来るんだろう?」と考えるか?

そんなことを考えさせてくれる一冊でした。