天然誤読生活

誤読とそら耳を恐れない書評と音楽レビューとトンデモ理論を書き散らすハートに火をつけて(くれるかもしれない)ブログです。

ひとりの人間はひとりの人間しか救えないという言葉が刺さる闘病記

 

脳が壊れた (新潮新書)

脳が壊れた (新潮新書)

 

『人は作業することで元気になれる』

これは【脳が壊れた】という本のなかで紹介されていた言葉。運動が脳に良いとうのはよく言われることですが、前述した言葉を思い出すと、トレーニングとかフィットネスという前に普通の日常を過ごせるということに改めて感謝するのです。

この本の著者、鈴木さんは41歳のルポライター。突然、高度脳機能障害の症状を発症してしまいます。そしてこの本は鈴木さんが発症から入院、闘病、退院、回復の途上の間の出来事、考えたことを赤裸々に、リアルに記録した一冊です。

 自らの意思通りに動かない指。小学生のように溢れる感情を抑えられない日々。作業料療法士の方の真摯なリハビリ指導に感謝。つらいリハビリを影ながら見ていてくれた看護士の言葉に涙。病室の隣のベッドにグレートデギンそっくりのおっさんがやってきたからさあ大変、笑いが止まらない。

そんなこんなで退院後、鈴木さんは気がつく。苦しさを人に伝えられない苦しさはこれほどつらいことだったのかと。人から気づいてもらえない苦しさ。鈴木さんがずっと取材してきた生きづらいと感じて不器用にしか生きられない若者たちの想いだったのではないか?何様のつもりでわかったつもりになってたんだ?

退院後、感情面でのブレーキはまだきかず何を見ても何を聞いても感情の爆発が止まらない。医師のアドバイスに従い、あえて抑えることは考えず流されまま想いの激流に従った。奥さんは何もいわず、そんな鈴木さんに付き添ってくれた。2週間後、嘘のように感情の爆発は収まる。

「ひとりの人間はひとりの人間しか救えない」

鈴木さんは奥さんに救ってもらったと気がつく。そして今回病気になり、奥さんの優しさに気がつく。振り替えって過去に奥さんが病気になった時自分は何をやってきたんだと思い尋ねる。

「あのとき、千夏は本当はどうしてほしかった?」
と聞いた鈴木さんに答えた奥さんの言葉は
「ただ、頭をなでてほしかった。」だった。

 その答えを聞いた鈴木さんは溢れる感情を抑えられなくなった。感情の暴走からはもう回復したはずなのに。ひとりの人間はひとりの人間しか救えない、けれど、ひとりの人間はひとりの人間なら救うことができる、ということにも気がつく。

この本は2016年に読んだ本の中ででベストといえる本の中の一冊です。
凄いポイントは3つありました。
①患者側から記録された脳の闘病記である事
②貧困問題に対して画期的なアイデアが提示
されている事
③著者の成長物語としての素晴らしさ

今回は成長物語としての良さを書いてみました。たくさんの人に読んでもらいたい一冊です。

2016/08/25