天然誤読生活

誤読とそら耳を恐れない書評と音楽レビューとトンデモ理論を書き散らすハートに火をつけて(くれるかもしれない)ブログです。

本当の勇気とはなにかを考えさせられる小説です。

 

本当の戦争の話をしよう (文春文庫)

本当の戦争の話をしよう (文春文庫)

 

 

これは2017年に読んだ小説の中では一番グサリときたかもというくらいの衝撃でした。
著者は実際にヴェトナム戦争に従軍しているんですね。1968年彼はアメリカで普通に大学生活を送っていた。当時の若者と同じように、当たり前のように「戦争反対!」って、反戦的な主張をしていた。だけど夏に実家に帰省しているときに徴兵令状が家に届く。真剣にカナダに逃げようかと国境近くのモーテルに宿をとり6日間考える。結局彼は戦争に行くことを決意する。理由はただ父や母や友達や街の人たちに「情けない男だと思われたくなかった」それだけの理由で。

 この本の体裁としては22の短編と掌編を組あせた連作短編なんですが、構成がちょっと面白いんです。物語の語り手は著者本人ティム・オブライエンという43歳の家庭をもつ作家。

彼が戦場で出会った人たちと出来事について、三人称で語ったり、本人の独白で語ったり、また三人称で語られた主役と現在直接再会して語り合ってる掌編を挟んだり、また本人が「ここで語られていることはフィクションだ」と語る手記や覚え書きのような掌編も挟みます。

そしてラストの22章目では戦争とは直接関係ない彼の9歳の頃の記憶が語られてこの連作短編は終わります。戦争ものではあるのですが、戦記であるとか、国際状況や歴史、
また政治状況みたいなものはほとんど書いてありません。

彼が加わっていた19歳から24歳くらいの若者だけの小部隊の中で起きた出来事だけをスケッチ風に書いてあります。例えば兵士たちの背嚢の中身を書いてメンバーたちの個性を描いている章や、アメリカから17歳の恋人をベトナムへ呼び寄せる男の話、そしてその恋人がいつの間に変わっていく様子、また勇敢でたよりになる兵士でありながら戦闘の際には国に残した恋人のストッキングを常に首に巻いて出陣する男の話、そして主人公ティムが初めて直接殺したベトナム人の男の話、などなど。

前述したとおり、著者はこれは事実ではなく「フィクションだ」とたびたびわざわざ言及するのですが、描かれる若者たちの苦悩とかわずかな喜びや後悔みたいなものが、あまりにリアリティがありすぎて、読んでいるとまさに「本当に戦争の話を聞いている」感覚になるんですね。

で、最後の章で描かれるのはベトナム戦争ではなく、著者の9歳の頃に出会った女の子の話です。著者は女の子とお互いに好きになりあいます。親同伴でデートに出掛けるくらいの仲になります。

女の子はいつも真っ赤でボンボンのついた帽子をかぶっています。学校でも常にかぶっています。クラスの悪ガキがその帽子をとろうとからかいます。女の子は静かにわらいながら帽子を押さえて抵抗します。少年だった著者は助けてやりたいと思いますが出来ませんでした。ずっと。そして悪ガキは女の子がきづかない時を利用して帽子を脱がせます。女の子は泣きます。病気のために女の子の頭は傷だらけでした。女の子はその秋に病気が悪化し亡くなる、という話が最終章になります。

これも著者は作り話だと書き添えています。この作品にはたびたび「勇気」という言葉が出てきます。「勇敢であること」という短編もあります。本当の勇気とは何なんだろう?という事を考えずにはいられない一冊です。

2017/09/11