天然誤読生活

誤読とそら耳を恐れない書評と音楽レビューとトンデモ理論を書き散らすハートに火をつけて(くれるかもしれない)ブログです。

憧れとの理想的な決着のつけかたを見せてくれた対談集

 

みみずくは黄昏に飛びたつ

みみずくは黄昏に飛びたつ

 

誰でも10代の頃に憧れたヒーローとかヒロインっていますよね。で、もしも大人になって、実際にその対象となる人物に話を聞けるとしたら、どんな気持ちになるでしょうか?今回ご紹介する本は、そんな夢をリアルに実現させた一冊です。

 10代のころから村上春樹を愛読していたという川上未映子さんという小説家が計4回に渡って、春樹さんの自宅などを舞台にインタビューした、という一冊です。

キャ~キャ~という感じのファン意識は表面的には出ていません。リスペクトを前提にしながらも生物学者がようやく出会えた希少動物の検体を解剖するように村上春樹のテキスト自体を、そして書く手法をさらに書くに当たっての心構えを、同業者ならではの鋭いメス(視点)で切り込んでくれています。

そんな川上さんに対して答える側である春樹さんも真剣になおかつ「ここまでネタをばらしてくれるの??」と思うくらいサービスたっぷりに答えてくれています。

川上さん自身が芥川賞を受賞するほどの作家ですから話はかなり具体的。執筆ノウハウや深い部分での書くにあたっての心構えみたいなものも春樹さんは惜しげもなく披露してくれています。

例えばMacで使っているエディターの種類とか執筆スケジュールの建て方とか・・・。だけれども聞かれる側である春樹さんのサービス精神のおかげもあるのでしょう。難解な文学談義という雰囲気はありません。

おふたりの話はとてもわかりやすく読む人誰もが、他の仕事や普段の生活にも応用できそうに思えるくらいに普遍性を感じます。

しかしヒヤッとする場面もあります。自称フェミニストだという川上さんがハルキワールドでの女性キャラクターの扱われ方についてツッコミを入れている場面です。春樹さんも結構答えにくそうにしているように思えます。男である私ならサラサラと読み流してしまいがちなそんな場面にもざっくりと切り込んでくれるあたりも面白いですね。

時期的には最新長編である【騎士団長殺し】を書く直前それから書き終わった直後の計4回となります。したがって【騎士団長殺し】に関する質問と答えが多いです。正直申しますと【騎士団長殺し】は私的には残念な作品という印象だったのですが、このインタビューを読んで再読してみたくなりました。少し印象が変わるかもしれませんね。

さて最初に書きましたとおり10代の頃に憧れたヒーローやヒロインに大人になって会って話をしたらどんな気持ちがするのか?自分的には想像外の状況になりますが川上未映子さんはこのインタビュー集という作品で「憧れ」に対しての見事な決着法を示してくれているように思えます。

それは「憧れ」の対象と同じにならなくとも同じ位置までいかなくとも、自分なりの足場さえ作ってしまえば「憧れ」と対等に話をすることができるということかな、と思えます。それが「憧れ」との理想的な決着の付け方のひとつなのかもしれませんね。


2017/08/20