天然誤読生活

誤読とそら耳を恐れない書評と音楽レビューとトンデモ理論を書き散らすハートに火をつけて(くれるかもしれない)ブログです。

旅に持っていく本を選ぶ時の楽しさを思い出させてくれる小説

 

八月の六日間 (角川文庫)

八月の六日間 (角川文庫)

 

 

私はミニマリストに憧れながらもやっぱり物は好きである。で、下世話なのか雑誌なんかで他人のカバンの中身なんて特集があるとついついガン見してしまう。デジタルガジェットが好きなのでそれ系のものを上手にカバンにパッキングされているとついついうなってしまう。しかしそれ以上に魅力的に感じてしまうのは山登り系の人たちのリュックの中身である。その楽しみを満喫させてくれるのがこの小説。

 

彼ら彼女らは当然その荷物を背負って山を登るわけだから必然的に持っていく物は考えぬかれた物たちが詰め込まれている。今回読んだこの本の主人公の女性は40歳近くになってからひょんなきっかけから登山にはまる。好きな仕事についていながらもとこか停滞感を感じてしまったり、失恋や友人の死などのリアルな辛い出来事にも出会う。

しかしこの小説の中ではそうした出来事について直接的に彼女の心情を描くことはない。何かあった後に自分にリセットボタンを押すかのようにまた自分と自分に降り掛かった出来事を客観視するためなのか、とにかく山に登る。だけど登り始めればとにかく山に集中する。そして山を降りてまた日常の世界を生きていく、という淡々としたストーリーである。

で、話は「物」に戻るが、この小説では登り始める際のリュックの中身が詳細に描かれている。エネルギー補給と気分転換の意味での持っていくお菓子のセレクトが面白い。
それから彼女は編集者であるだけに無類の読書家でもあるので、持っていく本の選び方も読んでいて楽しい。山へ向かう際の電車内で読む本、山小屋で眠る前に読む本など家の本棚から選ぶ過程も面白い。

そんな部分が私のささやかな「物好き」を刺激してくれることに加えて山で癒される彼女と一緒に読んでいるとどこか癒やされる感覚もある読後感の良い小説でもある。

2017/08/11