天然誤読生活

誤読とそら耳を恐れない書評と音楽レビューとトンデモ理論を書き散らすハートに火をつけて(くれるかもしれない)ブログです。

ハルキストではない私が大好きな村上春樹をアンチ村上春樹な人たちにすすめるとしたら。

 

東京奇譚集 (新潮文庫)

東京奇譚集 (新潮文庫)

 

 

  私は村上春樹をかなり読みますが「ハルキスト」というくくりは好きではないです。なんでかってのはよくわかりませんが。
その村上春樹の作品に出てくる登場人物がこんなことを言っていてすごく印象に残っています。

 

「私は何の世代でもない。私はわたしとして生きているだけ。簡単にひとくくりしないで」

 

この言葉は短編集「東京奇譚集」の中の『ハナレイ・ベイ』という作品に登場する女性の言葉です。で、この言葉にえらく共感を受けてしまいます。

主人公のこの女性、サーフィン中の事故で19歳の息子さんんを亡くしてしまったお母さんなんです。芯の通った強い女性。そして正直な人間として描かれています。息子さんに対する正直な気持ちも書いてあるのですが、けっこうショッキングな事も書いてあったりするんです。そういう気持ちってのも実際はあるよなぁ、きれいごとだけではないよぁなんて感じたりもします。

で、上で引用したような言葉も語るわけです。やっぱり強い人なんでしょうね。だけど、やっぱりね、それだけじゃないわけです。事故のあと毎年ずっと決まった時期にその海へ行ってぼんやりとすごします。で、そこで不思議なことが起こるわけですが、それがなんともね・・・苦難とか悲しみってそれを受け止められる人のところにやってくる、みたいな言葉がありますが、それって本当なんですかね、どうなんだろう、というか強い人なんて本当にいるのかな?なんてことも考えてしまう読後感ですね。でもとてもキレイな作品です。これ、読んでおいて損はない作品かと思います。村上春樹が嫌いでも苦手でも。

 

村上春樹ってもちろん人気もありますが、それだけにアンチもやっぱり多いですよね。別に好き嫌いは人それぞれなので、嫌いな人にむりやり勧めたりすることはないんですが、時々嫌いというよりもわからないんだよね、という人が、私に対してオススメは何?と尋ねてくるくることがあります。そんな時は上の作品と同じく「東京奇譚集」の中に収録されている「偶然の旅人」という短編を勧めています。

 

この作品も人の世の悲しみみたいなものを描いてはいるんですが、時々悲しみをふんわりと包んでくれるような奇跡みたいな出来事って実際あるじゃないですか。そうした奇跡みたいな不思議な出来事を描いた作品です。ゲイの男性が主人公なんですが、彼がある日カフェで買ったばかりのディケンズの本を読んでいる。するとすぐ近くの席で同じようにディケンズの同じ本を読んでいる女性を発見する。それがきっかけで二人は仲良くなる。その出会いがきっかけで彼はずっと疎遠だった姉に電話をして10年ぶりくらいに再会するんですね。で、そこで悲しいんだけれど、それをそっと包んでくれるような奇跡に遭遇する・・・みたいな話。これもすごくキレイな話で、春樹嫌いの人にもオススメできる作品。短編にも名作の多い春樹さんですが、自分的には短編ベスト5に入りますね。

で、彼がカフェで出会った女性に語る自らのルールってのが、またいいんですよね。最後に引用しますね。


「かたちあるものと、かたちのないもの、どちらかを選ばなくちゃならないとしたら、かたちのないものを選べ。それが僕のルールです。壁に突き当たった時はいつもそのルールに従ってきたし、長い目で見れば、それが良い結果を生んだと思う。そのときはきつかったとしてもね」