天然誤読生活

誤読とそら耳を恐れない書評と音楽レビューとトンデモ理論を書き散らすハートに火をつけて(くれるかもしれない)ブログです。

人間はランボーとマザー・テレサの組み合わせだった

 

ヒューマン  なぜヒトは人間になれたのか

ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか

 

『人間はランボーマザー・テレサの組み合わせだった』

「優れた戦士は利己的ではありません。利己的な戦士なら、仲間を先に行かせて、自分は後ろに控えているでしょう。優れた戦士は、集団のために進んで危険を冒すという意味で利他的なのです。人間はランボーマザー・テレサの組み合わせです。この二つを組み合わせることは奇妙に思えますが、良かれ悪しかれ、それが人間性だと思います」

というサミュエル・ボーズさんという経済学者の言葉がこの本で紹介されています。仕事をしている場面では「あんたの心は何で出来ているんだい??」ってくらい、ドライでハードな人が、一歩家に帰れば、でれでれで甘々なお父さんになっていたりすることって少なくはないですよね。

でも、この二面性というのが、今の時代まで生き残ってきたタイプの人間の典型的姿でもあるのかもしれませんね。あまり詳しくはわかりませんが愛情ホルモンという別名もある「オキシトシン」なる脳内ホルモンが多く分泌されるほど、人は身内に優しくなるけれど、同時に身内を守るために外部に対しては攻撃的になる、という話は別の本でも読んだことがあります。人間ってややこしいですよね。

で、この本はそんなややこしい人間のこころはどんなふうに出来上がったのか?歴史的に検証していこうという趣旨で作られたNHKのテレビ番組の書籍化です。サピエンス全史という歴史を扱った本がとても売れましたが、つながるとところもあり興味深いです。

サピエンス全史では人の心を形作った一番大きなものは「虚構」を作ったことだった。という結論でした。

lifeofdij.hatenablog.com


で、こちらの本では3つの大きな発明が人の心を作り上げたと主張しています。
①おしゃれ
②飛び道具
③コイン

①のおしゃれって意外な感じもしますが、考えてみれば我々人間以外の動物で、装飾品などの物を使っておしゃれをする動物っていませんよね。(孔雀の羽根みたいな天然なものはありますが)聞いたことも見たこともない。そして人類の物を使うおしゃれの起源ってのは、天然の顔料を身体や顔に塗りたくる、みたいな感じだったらしいです。で、なんのためにそんな事をしたのか?たぶん「自己主張」ですよね。この「自己」を意識するってのも人間くらいのもの。そしておしゃれをすれば自慢したい。そして見事なおしゃれに対しては「いいね!」って言いたい(このあたり現代人も変わらない 笑)。そしてそのためには言語が必要になる。
加えておしゃれな装身具、首飾りのようなものって自分で身につけるよりも誰かにプレゼントするものって使い方が多かったようです。身内にも贈ったと思いますが、遠く離れた違う部族にも贈っていたらしい。すると相手からも贈り物が返ってくる。部族間の友好の印にもなったんですね。で、もしもどちらかの部族がピンチのときには助け合うことができる。というのもヒトの生き残りにとって大きなことだったらしい。リスク管理。まぁそういう実利的な目的もありますが、ヒトって誰かにプレゼントするのが好きですからね。赤ちゃんが最初に自主的にする行動はものを拾って口に入れることで、次にするのは拾ったものを誰かにプレゼントすることだという、にこにこしながら。面白いですよね、この行動。

②の飛び道具ってのも面白い。投擲機というやつの発明ですね。弓矢の原型でもありピストルのルーツでもある。テコの原理を利用して力をかけずとも、離れた場所から獲物を仕留めることが可能になった。この発明は体力的にはるか上をいっていたネアンデルタール人が滅びて、我々サピエンスが生き残った原因のひとつにもなっている。直接、武器で抗争をしていたというわけではなくて、獲物獲得競争において勝ったということですね。同じ獲物を狙っていましたから。それから、もう一点。この武器の発明によって、人間はより大きな集団を作り上げることが可能になったんですね。ダンパー数というのがあって、認識できる個体数というのはある程度、大脳新皮質のサイズによって、決まっている。テナガザルは15、ゴリラは34、オランウータンは65、そしてヒトは148ということなんですね。だから、原始の時代において集団がいくら大きくなっても、だいたい150人まで膨らんだ時点で分割されていくことになった。だけど、投擲機という武器の誕生による影響もあり、その150を突破してより大きな集団が出来上がるようになったということです。具体的な理由はいくつかあるのですが、ちょっとハードな話ですと、処罰処刑が円滑にできるようになった、という事もあるらしい。もしも集団内部で秩序を壊すような者がいればなんらかの処罰をくださなければ集団は維持できない。殺人などの重刑の場合はやはり死刑ということになる。だけど、誰も死刑執行人にはなりたくない。その時、一人の罪人に対し、多数の処刑執行人が投擲機を使って刑を執行すれば、ひとりの執行人のときよりも精神的負担や相手の身内からの復讐というリスクも減る。この結果、刑罰のシステムの円滑化、これも大きな集団を形成することが可能になったことの一因ということ。

③のコインってのは大体想像がつくと思いますが、ものすごい発明であって、結果的に人のこころに、いろんな良いことも悪いことも生み出したもの。まぁ腐ることのない保存できるコインというものが出来たおかげで独占するっていう心が人間に芽生えたのかもですね。そして、コインって最初は等価というか、純銀100%で作られていてそれ自体に価値があった。ところが、頭の良いローマ人が徐々に銀の含有率を減らして、そのかわりローマ皇帝の顔をコインに彫って「銀は少ないけど皇帝がこのコインの価値を保証するよ!」っていうシステムを生み出すんですね。これがお金という信用制度の誕生になるわけですが、すごいですよね。このむちゃくちゃな論理を発明したのは(笑)ちなみに余談ですが、日銀が発行する1万円札の原価は22円らしい。

というような3つの軸を元にランボーマザー・テレサの組み合わせという人の心の成り立ちを研究している本です。テレビ番組もリアルタイムで見ていて面白かったですが、書籍版のこちらもとてもオススメの面白さです。
2017/10/05